友人

私が彼を最初に見たのは一端のデューラーとして働いていた時だった。見たことのない彼は最近この街に配属されたのだろう。その時は対して興味もなく、私はただ自身の店を持つことで必死だった。1度だけ目があった彼も、一般兵の警備職などにはサラサラ興味がないように見えた。だから私は彼には二度と会うことはないだろうし、明日になれば彼を気に止めた事すら忘れているのだろうと思う。

それが今になって思い出したのは走馬灯というやつだろうか。

「あの情報屋に感謝するべきだな。」

「ディムさんと、アルディのことですかね。」

砂蔵さんはため息をついて私の隣に腰をおろした。倒れたままの私を起こそうともしない。まぁ、肋骨が(多分)折れている今は起こされても困るのだが。

「浦和、らしくないミスをしたとか。」

「油断しただけですよ。まさか、私の駒の中に裏切者がいるなんて。私も甘くなった。少しぬるま湯に浸かりすぎたようで、一歩気付くのに遅れたなんて。」

あの青年はどうしただろうか。きっとディムさんとアルディが仕留めているのだろう。もしくは砂蔵さんの部下達か。

「…砂蔵さん、貴方もらしくないですねぇ。」

くつくつと笑うと肺が痛んだ。それでも私は砂蔵さんを見上げ、笑みを浮かべる。

「何を言い出すかと思えば…」

「だって、貴方が表だって動くなんて。私に貸しでも作るつもりでしたか?」

「それも悪くないけれど。…でも、つまらないからね。私は浦和が思うより浦和を買っているんだ。なにせ私の友人だろう。」

彼がらしくない事を言うから、私は面食らった顔をしていた事だろう。確かに私も砂蔵さんは私の数少ない友人だと思っているし、私を買っている事など重々承知の上だと自負していた。それをわざわざ言うということは彼なりに私を心配したという事だろうか。

「砂蔵さんにそう言われるとは、これは明日は雨でしょうかねぇ。ああ、怒らないで下さい。申し訳ない。そうですね、私と貴方は友人ですから、私も貴方を無くすのは惜しい。」

ねぇ、あの時貴方は予想しましたか?予期したでしょうか?私と貴方が友人となるなんて。私は全く微塵も考えてなかったし、正直貴方の存在なんて覚えてすらいなかった。貴方は軍人で、私はカジノ経営者。友人だなんて、笑い話のようだ。

「砂蔵さん。手を貸してください。そろそろ帰らないと私の駒達が心配するでしょうから。」

「その心配はいらないようだ。」

バタバタと足音が、バタンっと見慣れた顔が。息を切らし数人は泣きそうな顔をして私を見た。

浦和さん!浦和さん無事ですか!
すみません浦和さん!俺があいつを信じたからぁーっ!
あんの野郎、殴り飛ばして沈めてやる!
だから男はダメなのよ!!浦和さんの治療が先でしょ!!
いい子ぶんなブス!浦和さんあの男殺っちまいましょうぜ!
あんたも下品極まりないわ!!私、一番浦和さんの心配しましたぁ!
俺もだし!心配とか超したし!!

静かだった部屋は急に騒ぎだし、私は無意識に笑い声をあげていた。

「ああ、本当に。いらない心配だった。…私は大丈夫だから、君達も帰りなさい。私のいない店を頼んだよ?」

私がそう言えば駒達ははいっ!と口を揃えた。忠実で誠実なそれらは友人とは違う私の大切なものだ。

「下に車を用意させているから、あとは任せるといい。」

「ええ、砂蔵さんなら安心ですし。お任せするとしましょうか。」


(信用にたる友人よ。)

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