散り華
例えば、例えばの話。もしもロトムが敵だったらシェルゥはどうする?
「…え?どういうこと?」
「んーとね、昨日みたドラマなんだけど、女の人は実は主人公の敵対してる組織の一員だったの。それで、もしロトムがそうだったらシェルゥはどうするかな?って思ったの。」
ふとした疑問だった。軽い気持ちで投げ掛けた質問にシェルゥは真剣に考えてくれてるみたいだ。シェルゥは優しい。それはロトムが一番わかってると思う。というか、そうだと嬉しいんだけどな。
「んー、僕なら…ロトムを連れ出して一緒に逃げるかな。」
「そっかぁ。ロトムもシェルゥと一緒ならきっと逃げるのも辛くないね!」
「っ!天使っ!!」
シェルゥが抱きついて来たからロトムは嬉しくてその腕に小さくしがみついた。シェルゥは知らないかな。ロトムにとってね、シェルゥは王子様なんだよ。だから、巻き込みたくはないなぁ。
嘘をついていた。ロトムはシェルゥの傍にいられるような子じゃないの。ロトムは多分、シェルゥが憎くて仕方ないあの一団の一人なの。それを知ったらシェルゥはロトムを嫌うかな?怒るかな?軽蔑、されちゃうかな。でもそれも仕方ないか。
「…貴女までついてくる必要はなかったんですよ。」
「やだなぁ、ロトムは皆を置いて逃げられるほど器用じゃないよ。」
沈む時雨の目を見てロトムはあの日の事を思い出した。マスターに破壊光線が直撃して、皆一瞬時間が止まったような気がした。あんなの、人が受けたらどうなるかなんて子供でもわかる。一番最初に動いたのは時雨だった。あの時雨が泣いてる姿なんてきっとあれが初めてだった。ピクリとも動かないマスターは死んでいるようで体が震えたのを覚えている。
「…あいつは、僕達に逃げられない枷をした。そして、次は目に見える枷を用意するでしょう。命を、落とすかもしれませんよ。」
「…電子のロトムは、消滅するだけだよ。」
マスターを助けるといったあいつをロトム達は殺したいほど憎んでいる。けど、ロトム達じゃマスターを助けられないのも事実。矛盾したロトム達は忌々しくもあいつのお人形になるしかないんだ。
似合うよ、なんて吐き気のする言葉を掛けられて本物のお人形みたいに着飾られる。真っ黒なワンピース。新品の匂いが鼻をついた。こんなもの何一つ嬉しくない。破り捨ててしまいたい。ああ、なんて気持ちが悪い。
「君たちが忠誠を誓うなら、君たちのマスターを生かしてあげよう。」
皆、つきたくない膝をついた。ロトムもゆっくりとその場に膝をつき、神に祈るようなポーズをした。忠誠なんか誓わない。偽りの祈りを捧げよう。首につけられた首輪は裏切れば爆発するという。怖くないわけがない。今にも泣き出しそうだけど、ロトムはぎゅっとスカートの裾を握りしめた。
「ごめん、ごめんね、シェルゥ…皆…ごめん、なさい…」
沢山の人が傷付いた。沢山のポケモンが傷付いた。泣いていた、ロトムを憎らしげに睨んでいた。いたい、痛いよ、体に穴が空いていくみたいに空っぽになってしまいそう。ピッピッと首輪から音がする。これを外せばロトムは自由になれるのに。
泣きながらロトムはかみなりを打ちおとした。
「ろ、とむ…?」
聞きなれた声がした。懐かしくて、聞きたくなかった声。なんで、声には出せなかった。振り向いたそこには驚愕を顔に浮かべるシェルゥがいたから。その目に写りたくない。嫌悪を向けないで、シェルゥだけには嫌われたくない。わがままだってわかってる。
「いで、来ないで。シェルゥ、ロトムは敵、だったんだ。」
綺麗だったそっちには戻れない。戻るにはロトムは汚れすぎたの。
「一緒に逃げようか、ロトム。」
差し伸ばされた手。今すぐにでも掴みたい。お姫様を迎えに来る王子様みたいに今すぐシェルゥに抱き締めてもらいたい。大丈夫だよって、言ってほしいよ。
「…あの、女の人はね…」
敵だった女の人は主人公を愛していたの。だけど、女の人は全て投げ出して逃げられるほど器用じゃなかった。ロトムと同じだね。ロトムは首につけられた首輪に手を伸ばした。
「自分を撃ち抜いて死んじゃったの。」
小さくシャドーボールと呟いた。シェルゥが叫んでいた。でも、これしかないんだよ。シェルゥを巻き込まない方法は。無理に外せば爆発する、指定範囲からロトムが出ても同じ。だったらロトムは自分を殺す。
「…ロトムッッ!!」
(電子幽霊の消滅)
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