夢食い漠


美味しそうな匂いがしていた。でも、あいつはそれを上手に隠してたからあたしは知らないふりで我慢した。けれどもあいつには大切な人が出来たらしい。だったら暗くて美味しいそれはあたしが食べてあげよう。せめて夢では笑えるように全部全部食べてあげよう。

「最近ねぇ、なんだかよく寝れるんだぁ。」

ふと聞こえた会話。あたしは少し嬉しくなった。ああ、悪夢はあたしが食べてあげる。あんたがあの人と笑えるように。あんたが幸せであるように。

何度も何度も繰り返し食べた。あたしに溜まる辛い夢があたしを蝕んで、あんたの夢があたしの夢に変わる。それでもあたしはこれを止めない。

「ねぇ、あんた、まだ辛いんだね。」

黒いもやをあたしは口に含んだ。咀嚼しないで飲み込んだ。涙が勝手に流れて、ピリピリと口の中が痛かった。

安心したように眠るレジーをみてあたしも安心する。いつまで続くかわからないこの行為に理由をつけるとしたら、惚れた弱味、だろうか。なんて。

「…本当は、終わらせられるのにね。」

帰ってくるはずない言葉をかけた。やってはいけないことだけど、そんな理由であたしはあんたの記憶を食べないわけじゃないよ。だって、望んでないでしょ?変に優しいあんただから。

「だからね、どうしてもダメで、死にたくなったら食べてあげるからね。無駄だとしても、無意味だとしても、あたしが…あたしがいなくなるその日まで。」

あたしがどこまで持つかはわからないけど、あたしが悪夢に飲まれるまでは。


(ドロリと、あたしを蝕むあんたの悪夢)

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