聞こえないサヨナラを


あいつが幸せならばそれでいいと思った。旅をして、色んな人と出会って、私の世界が狭かった事を知った。幸せの意味を、別れを、沢山知った。だからだろうか。いつしか私は隠してきたあたしの気持ちに気づいていた。

「えっ!?それ、本気〜…?」

「冗談いってどうすんのよ。」

忍は怪訝な顔をしていた。あたしよりあたしの気持ちに気づいていた彼女だから、あたしの決断は腑に落ちないようだ。まだ何かを言いたげな忍にあたしは笑って見せた。

「自己犠牲だとか、あたしが身を引けば、とか、そんな殊勝な考えじゃないよ。あいつが笑えればいいの。あたしの幸せより、そっちが大切だったってだけなんだから。」

あたしじゃ出来ない事をあの人はできる。それが羨ましく思うのも本当。それがひどく妬ましいのも本当。だけど、それはあたしには絶対に出来なくて、理解すらできなくて、それで、多分、踏み込んではいけない領域なんだと思う。

「…いいオンナは〜損するんだって〜。」

「いいよ。いつかそのいいオンナを逃したって、後悔させてやるから。」

「あはは〜、そりゃいいや〜!」

あいつが笑えればいい。幸せを絵にかいたみたいに、笑ったり、泣いたり、焦ったり、怒ったりして、内側に隠した黒いものを忘れてしまえばいい。

辛い過去はあたしが貰っていってあげるから。奪い去って、どこかに棄ててあげるから。

「後で気づいたって、遅いんだから。ばーか。」

幼いあたしの恋心。伝えないと決めた。幸せの形とはそれぞれなのだと、綺麗に笑った彼女が言っていた。その時はわからなかったけど、今なら分かる気がする。

あたしはレジーが好き"だった"。



(ばいばい、)

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