愛し方を知らない


無くしたくはない。誰にも手渡したくない。我儘だと言われても構わない。そんな歪んだ愛情。

「だって、仕方ねぇだろ?気に入っちまったんだから。」

さも当然に信楽は呟いた。カーテンの閉め切った部屋は薄暗い。窓を叩く雨の音が唯一外の様子を知らせてくれていた。後ろに回され縛られた両腕では何をする事もできない。そんな状態でありなからもオウカは微塵も怯えた様子はなくだた困惑したような顔をしていた。

「なんで、こんな事するんだ?」

訳がわからない。そんな顔をするオウカに信楽はグッと顔を強張らせた。今にも泣きそうな顔だったのが不思議でオウカは目線が外せなかった。

「あ、あー、そうだな。オウカくんが好きだから、とか?」

ケラケラとあざ笑う。それが本心ではないとオウカは思う。明確な理由はなかったがオウカにとって信楽とはそういう性分なのだと認識されていたからだ。

「い、いい加減にしろっ!!信楽、こんなのはやり過ぎだっ!!」

「は?」

一瞬、信楽はとても冷たい目をした。オウカが見たこともない表情だった。信楽はゆっくりをオウカに近づき目の前でしゃがみこむ。

「なぁんも、わかってねぇんだな。俺はさ、まだ足りないって思ってんだよ。」

オウカが何か言う前に信楽は悲しげに眉を下げ喋り続けた。

「でも、オウカくんはそれを嫌がる。、あぁ、分かってたことなんだけどな。なぁ、頼むよ、俺を、拒まないでくれ。」

幼子のように手を伸ばした信楽をオウカは避けることはしなかった。というより避けることができなかったという方が正しい。信楽に抱き込まれる型になって、ただただされるがままだった。信楽の顔は見えない。ああ、冷たい。直に伝わる体温にそんなことを思うだけだった。

「(愛を知らない子ども…)」

暫くして信楽はオウカの傍で眠っていた。窓を叩く雨は強くなっていて嵐でもくるんだろうか、と頭の隅で考える。ふと信楽に視線を向けた。そこにはいつもの信楽がいて、さっきの事などなかったようだ。でも、オウカはしっかりと覚えている。あの時、もしオウカが信楽を拒んでいたらきっとオウカは殺されていただろう。

「信楽、お前はいつから・・・」



(狂ったんだ?)


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