理由なんかない

バキッ、と重たい拳が頬に衝撃を与えた。どうしてこうなったのか、なんてこっちが説明してほしいくらいだ。続けて腹に蹴りが入る。鳩尾に入った蹴りは呼吸を乱すことなんて造作もないだった。

「っは、…ってぇ…な、容赦…ねぇの…っ…」

肋骨は折れたかもしれない。口の中が切れてて不快な鉄の味がした。そうしてる間にも何度か蹴りが繰り出されて、青アザを全身に作っていた。壁にもたれ掛かる形で何とか立っていたが、もはやそれすら辛くなっていた。

「信楽、まだだ。」

崩れ落ちる俺の髪を掴み上げ、膝立ちにさせる。ぶれる視界をなんとか矯正させようと目の前の男を見た。男は氷瀧くんだった。ニタニタと笑い肩に手をかけた。

「まだ、終わらせない。」

その言葉が聞こえたすぐあと、肩に鈍い痛みが走った。外された、そう理解すると壮絶な痛みが襲ってくる。氷瀧くんが手を話すと、俺は肩を押さえながら地面に這いつくばった。

「ごめんねー、痛い?」

外された肩に手を掛けてぐっと力をいれた。その口調は普段と何の代わりもないのに、水嵐くんの笑みに背筋が震えた。何とか起き上がろうと手足を無理に動かして四つん這いの格好になる。しかし、そのまま起き上がることは出来ず、水嵐くんによって壁に叩きつけられた。

「うあっ!!…っ、ふざ、けんなよ……こ、んな………っ!」

やめろ。そういう前に頭を殴られた。切れたのか生暖かい血が流れるのが分かる。背を壁にしているために避けることは出来なかった。

「ほぅ、まだ抵抗するのか。やるなぁ、お前さん。」

煌青くんが足で鳩尾を押し始める。青アザや折れた肋骨が痛い、いや、それよりも呼吸が上手くできなかった。はっはっ、と短い息で酸素を求める。それを三人は楽しげに見ていた。

終わらない。

終わらない。

終わらない。

朦朧とした頭ではそんな言葉が繰り返されていた。何時間繰り返されたのか。時間の感覚なんてもうなかった。

「……信楽は肌が白いからな、余計に痛々しく見える。」

氷瀧くんが服をめくり上げ紫に変色した腹部を撫でた。外気に触れひんやりとした空気が直に伝わる。同時にじくじくした痛みに小さく声がもれる。

「そろそろ可哀想じゃないか?」

微塵も思ってないだろう声で煌青くんが氷瀧くんに声をかけた。大方飽きたのだということは見てとれる。ああ、もうすぐ終わるのか。そう思った矢先、煌青くんが持っているものが視界に入る。

それはどこにでもあるような果物ナイフだった。

「じゃあ、それで最後にしようか。」

水嵐くんの楽しげな声に二人は頷き、煌青くんはそのナイフを氷瀧くんに渡した。何をされるかは予想がつく。案の定、ナイフはさっきまで氷瀧くんが触っていた腹に深く差し込まれていた。

「大丈夫。信楽、お前はそのくらいで死なないからな。」

氷瀧くんの意味深な言葉は意味を理解する前に頭から消えた。



(どうしてこうなったんだっけ…?)

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