秘密を知る鍵

ねぇ、初めまして、だよね?***って呼んで。さて、君は誰で、どこから来たの?あ、言葉わかるよね?

…そう。じゃあ、今からする話をよく聞いてね。

きっと、多分、忘れてしまうと思うけれど…。

「*…**…?」

地下通路を抜けた先に白い部屋に繋がる扉がある。それはとある情報屋から聞いた話だった。白露がそっと扉をあけ中を確認する。

「…ふぅん。案外マトモなもんだ。」

「あら、そう決めつけるのは早いわよ。」

誰もいないことを確認すると緋凪、次いでつららと銀牙が部屋の中へと入ってきた。白い部屋には医療器具がズラリと並んでいる。薬品棚には世界にひとつとされている薬まであるのだから白露が言うようなマトモとは呼べないのだろう。

「…使われた形跡がない。」

銀牙がポツリと呟いた。緑亜。ついさっき銀牙の口から出た名前だ。これさえあれば、と嘆いている姿から緑亜というのは生きていないのだろうとつららが推測する。つららは何故かさっきから銀牙を気にかけていた。どこかであったような、そんな気がしていたのだ。

「行きましょう。ここにいても仕方ないわ。」

確証はない。だからつららも滅多なことは言わなかった。つららの言葉に銀牙は無言で頷き、先に進んでいる白露と緋凪の後を追う。

「ねぇ、あなた達はどこまで知っているのかしら?」

ふと、緋凪が問いかける。素朴な疑問ではあったが、それこそ答え次第によれば確信へと迫るものだ。つららは少し口ごもり、視線を足元へ下げた。白露も曖昧に笑って誤魔化している。そんな様子に緋凪ははぁ、と大きくため息をついた。

「今更よ。今更なに言われても仕方ないのよ。少なくとも私はそう思ってるわ。何に執着しているのかは知らないわ。私の知ったこっちゃないもの。正義だ悪だってのもそうよ。私は便宜上名乗ってるだけ。たまたま、偶然にそこにいたから私は西方軍についた。それだけ。」

つらつらと、まるで愚痴を溢すように緋凪は話続けた。

「あなた達が何故何も言わないのかなんて察しがついてるわ。だってそりゃそうよ、悪いのは"西方軍"なんだから。」

「緋凪!?」

慌てたような声を出したのは銀牙だった。勿論つららと白露の二人も驚いたように緋凪を見ていた。

「私、潜入操作だとかハニートラップだとかやってきたのよ。モニターの前で座ってるだけの坊やなんかよりずっと内密な情報を持ってるに決まってるじゃない。それも、私利私欲な私的感情がこもった取って置きよ。」

「…ははっ、そりゃあいい。少々、見くびっていたようだな。なぁ、つらら?」

「…そうね。…緋凪、だったわよね。私達がどこまで知っているのか。それは何も知らない。っていうのが正しいの。少なくとも貴女が知っている事より先は知らないわ。きっとね。」

つららが少しだけ寂しげな表情で答えた。緋凪はそう。とだけ返すともう振り返ろうとはしなかった。だが、一人だけ何も知らぬ者がいた。黙っていた銀牙が緋凪に話しかける。

「…話してくれ。」

「…嫌よ。貴方、西方軍を信じているでしょう。」

「!!…それは…っ…」

確かにそうだった。この場所は自分と弟の居場所だった。だから西方軍が悪い、だなんて認めたくはない。けれど、信じていた西方軍にいたとしても緑亜がいない。そんなことわかっていたはずだった。そして、銀牙だって薄々勘づいてはいたのだ。

「いいじゃないか。それこそ今更だ。なぁ、あんたの口から言ってやれよ。今、一番知りたいことってやつをな。」

白露がケラケラと笑いながら、銀牙の肩を叩いた。意を決したように銀牙はもう一度緋凪に頼む。

「話してくれ。知っている事を、全て。」

「……はぁ、時間がないから歩きながら言うわ。…最初に言うけど、私が知っている事はだって極僅かよ。でも、本物。…西方軍はかつて人畜非道な人体実験を行っていたのは知ってるでしょ?あれ、最近になってまた繰り返そうって話が出ているのよ。今は大々的にやっていないだけで多分無くなってはいないと思うわ。東方軍が出てきたわけっていうのはそれがキッカケなんでしょう?」

「ええ。その通りよ。」

「軍がやっていた事は人体実験。目的まではわからないけど、どうせ録な物じゃないのは確かね。私も最近まで人体実験を行われてると言われてる施設へ行っていたわ。中までは入れなかったけど多分黒ね。…実をいうと、緑亜を探すという目的もあったのだけど。」

緑亜。その言葉に銀牙は反応せずにはいられなかった。勿論、銀牙がなにかを言う前に緋凪が先に話を続け出す。

「いなかったわ。あそこには。正直、生きているかすら怪しいものだけど。私が知っている事なんてこんなものよ。ただ、私は西方軍、いえ、軍がしたこと最低だと思ってるわ。…ああ、ここ。昔成功した被験体を保管しておく場所だったらしいわ。実際使われたのは一回きりで、…この階段を降りた先にある部屋だそうよ。」

全員が息を飲んだ。もしかしたら、この先は見たくないものがあるかもしれない。そう思うと足がすくむようだった。一番に足を動かしたのはつららだった。

「なぁ、おかしくないか?」

階段に足がつく。そんな時白露がふとそんな事を言い出した。

「なにがよ。」

苛立ったような声でつららが答える。否、実際苛立っているのだろう。

「ここまで誰にも会わなかった。本当に実験が再開されるなら化学者の一人くらいいてもおかしくないはずだろ。」

「…でも、先に行かなければ何もわからないままよ。」

吐き捨てるようにつららが階段を降りていった。それにつられ銀牙も階段を降りて行く。呆れたように笑いつつ白露は緋凪に目配せをした。

「…あの子、強いわね。…でも、警戒に越したことはないわ。私達はここに待機する。それでいいのよね?」

「ああ、そうだ。」

***

僕は何を忘れてる?
ここにあるのは描かれた青い空。窓はない。お皿には赤い苺が沢山。それ以外は知らない。誰かに何かを言われたけれど、何だったっけ?誰だったっけ?

「…とても…悲しい顔をして、いた…そう、名前…なまえは…*、**…」

「緑亜っ!!」

ガシャン!と格子が揺れた。銀牙が必死に手を伸ばし部屋の真ん中に座る緑亜を呼んだ。

「緑、亜…僕の…なま、え……」

緑亜は銀牙の記憶と寸分代わりない姿をしていた。本来ならば成人していてもおかしくない歳であるのに。つららにはそれは異常に見えた。

「緑亜!緑亜っ!」

「お、にぃ、ちゃん…」

ふらりと緑亜が立ち上がった。一歩、一歩とふらつきながら緑亜は真っ直ぐに銀牙の元へと歩いてくる。

「!今、格子を開けるわ!」

つららが思い立ったように側にあった機械に何かを打ち込んだ。錠の落ちた音がして閉ざされていた格子が開く。銀牙は緑亜に走り寄り抱き締めた。変わっていない。何もかも。嬉しさと、どうしようもない悲しさが銀牙を埋めていった。

「お、にぃちゃ、ん…けて、助けて、…あの子を、止めて……一番、最初の…犠牲者を…助けて、あげて…!…」

緑亜が泣きじゃくりながら叫んだ。掠れる声で、ぎゅうと、銀牙にしがみついた。訳のわからない銀牙はただ緑亜を抱き締める事しかできないでいる。つららが何かを言う前に、階段の上から悲鳴が聞こえた。



(走り出す、巡り出す)


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