そして、核心へ

終わりにしようと、彼が言った気がした。それは一瞬の出来事だったから、誰も気づくことはできなかった。それほど彼が追い詰められていた事など、知らなかったのだから。

銃声が聞こえたのは一発。それが、合図。協定なんて結べないくらい、溝は開いてしまった。

「…どこから、間違ったんだっけ…?」

***

諸悪の根源。そう呼んでもなんらおかしくない場所に彼らは立っていた。気丈に振る舞うレジーを支えるように隣に立つ虎銀。意味ありげに笑みを浮かべる水嵐。そして、無表情に目の前の敵を眺める信楽。彼らがいる場所。そこはかつて人体実験と称され信楽やレジーらが閉じ込められていた施設の一部だった。

「…っ、はは、笑っちまうぜ。まだこんなの残してやがったのか。なぁ、なんとも思わなかった、なんて言わせねぇぞ。氷瀧。」

キッ、と信楽は目の前の氷瀧を睨んだ。氷瀧はそれに口ごもるしか出来ずにいた。そこで何が起こったのか知っている。そこで何をしていたかも。

「なぁ、レジーよ。忘れたことなんて、あったか?」

振り返らず、信楽はレジーに問いかけた。

「…ないよ。忘れられるもんか、あの、地獄のような日々をッ!!」

「ああ、そうだ。俺達は忘れない。いくらてめぇらが正義を語ったところでだ。何一つ変わらねぇ!変えらんねぇんだよっ偽善者が!!だから壊す、殺す、潰してやる。分かるだろ?なぁ?」

誰もが耳を塞ぎたかった。目を反らしたかった。それはもう数年前の事だというのに、レジーにも信楽にも憎しみだけが色濃く残っていたのだから。

「分かりませんよ、そんなの。」

突然、そんな声が響いた。廃棄された施設の扉が開いた。中から白い白衣を纏い、時雨が一人で出てきた。その場にいた西方軍、氷瀧、ファンドル、夜来の三人は驚いたように目を丸くした。時雨が鉄冶を連れていないことにも、戦前へ出てきたことにも。

「……ってる。そいつ、俺知ってる。ああ、忘れるもんか、汚い、腐った、化学者共と一緒に、俺達を見下してた奴だっ!!」

レジーが声を張り上げた。憎い、憎い、憎い。憎悪。そんな視線を浴びながらも時雨は平然と話を続けた。

「貴方達の過去には同情します。哀れみます。情状酌量の余地もあるでしょう。ですが、貴方達のやっていることはただのテロ。犯罪じゃないですか。それにどう賛同しろと言えるのですか?」

「うるさいっ!黙れっ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!殺してやる、俺が、殺してやるっ!!」

「レジー!落ち着け!」

虎銀の声すら届いてはいなかった。それほどまでに恨んでいた。憎んでいた。時雨がふとレジーを眺め、ため息をついた。

「最初から、わかってた事なのに。」

最初からおかしかったのだと、誰が気づけたか。なぜ彼は廃棄された施設から出てきた?何故彼は一人だった?なぜ、なぜ、何故。

「……わかってもらうつもりなんてねぇよ。だってこれは、復讐なんだからな。」

白い白衣が赤く染まっていた。硝煙が立つ。誰もが言葉を無くした。誰かが駆けてくる足音だけが響いていた。



(もう、戻れない。)


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