開戦

爆発音、銃声。煙ったらしい火薬と砂煙。西方軍の正門に配置された隊はほぼ壊滅状態となっていた。ぞくぞくと集まる東方軍。血飛沫、悲鳴、敵を呪う言葉が蔓延するそこは正に地獄絵図といったところだろうか。

「…いい具合に暴れてんなぁ。そう思わねぇか?」

「……あれらは、所詮そんな者…でしょう?」

西方軍の建物の上からディムとアルディが様子を眺めていた。ニヤニヤと笑うディムがそうだな。と一言。そんな二人の後ろに黒い影があった。

「やっぱり貴方の差し金でしたか。」

浦和が二人の後ろから話しかけた。その場に不釣り合いなコートが揺れる。

「!…なんだ。アンタか。いやいや、差し金なんて大層なもんじゃねぇよ。ちょっとばかしキッカケを与えてやっただけだ。」

「ふふ、私の情報が役にたったのなら何よりですねぇ。まぁ、ほどほど気を付けてください。」

ケラケラと掴み所のない笑みを浮かべ、浦和は後ろに控えていた部下と共に去っていった。ディムはもう一度眼下を眺めるとニヤリと口角をあげる。東方軍が使っている武器は情報を駆使してディムらが集めたものだ。そしてそれを東方軍に売った。だがそれだけではここまで動いてはくれなかっただろう。その為に浦和に頼み火種を用意したのだ。到底手に入れる事など困難な人体実験の情報。

「精々、派手に暴れてくれよ。悪役の東方軍。」

ディムが呟く。その言葉は隣にいるアルディにしか聞こえてはいない。全ては彼女の手の内なのだろう。なにも言わないアルディはふっとそんな事を考えた。優位に立っている実感。そんな気分に浸るのも一瞬だった。アルディがディムを抱き上げ後ろに下がる。そんなわけはないと分かってはいるのだが、確かに二人は誰かの視線を感じた。

「どうした?」

「んぁ、いやぁ。ゾクゾクするみてぇな視線を感じてなぁ…。ま、気のせいかぁ。」

ディムとアルディがいた場所を見上げ両手を赤く染めた炎楼が呟いた。

「気持ちわりぃな、お前…。」

「ひっでぇなぁ、紅季ぃ。」

背中合わせで戦う二人の呑気な姿に暦と永久はグッと武器を握り締めた。勝てる見込みがあるわけではない。それでも戦わないという道は残されていなかった。先手を打つように暦が走り出す。

「正義を、貫かせてもらうでありますっ!」

だめだ。瞬間永久が直感した。降り下ろされた足は紅季によって簡単に掴まれる。しまった。そう暦が思うのと同時だっただろう。紅季は暦の足を折った。鈍い音と悲鳴。それをうるせぇ、と紅季は容赦なく暦を投げ捨てた。

「てめぇっ!!」

「お前の相手は俺だろぉ?」

暦に駆け寄ろうとした永久の脇腹に炎楼の蹴りが入る。嘘だろ、と思わずにはいられなかった。実際、炎楼には何発も銃弾を撃ち込んだ記憶がある。それなのに蹴りの威力は全く下がっていないのだ。

「なぁ、こっちは終わったからサッサッとしろよ。」

紅季が炎楼に声を掛けた。目を向けると紅季の足元に倒れて全く動かない暦がいた。

「あっるぇ、はやくねぇ?」

「頭ぶち抜いたら死んだ。」

永久は一瞬紅季が何をいっているのか理解出来なかった。死んだ?あの暦が?理性よりも怒りが満ちていくのがハッキリと分かる。永久がソッと腰につけていた鞄に手を忍ばせる。それは最後の手段でもあった。

「じゃあ、俺も終わりにしっ…ッ!!」

「終わりにしてやるよ。」

手榴弾。永久の最期の手段だった。伏せろ!炎楼が紅季に叫んだ。瞬間、爆発が起こる。辺り一面を巻き込む衝撃。咄嗟に伏せた紅希だが破片が額を掠めた。炎楼はあの位置で無事な筈はない。

「炎楼っ!」

見えない姿を探し叫ぶ。すると、うう、と小さな呻き声が聞こえた。砂煙の中から血塗れの炎楼がフラフラと出てくる。だが、その左腕は跡形もなく消え去っていた。

「やっべぇ、窮鼠猫を噛むってやつかぁ?」

「意味わかんねぇし。つーか、それ大丈夫なのかよ。」

「大丈夫に見えんのかぁ?紅季にはよぉ。」

軽口を叩くが、炎楼はもはや戦力にはならないことは明白だった。そのときだ。炎楼の後ろに人影が現れる。ナイフを手に躊躇や迷いなく一瞬で炎楼の首に突き立てた。

「っ、じ、…かよ…」

ズルリと炎楼の首からナイフが抜かれる。オウカはそのまま地面に倒れる炎楼を見下ろし、いない。と呟きその場を去った。誰かを探しているような様子だった。柄にもなく紅季はほっと胸を撫で下ろす。

「…ま、運も実力の内ってな。」

炎楼を視界の端に捉え、紅季が笑う。





(お前の分まで暴れてやるよ)

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