利害一致の小同盟

ジリジリと警報が鳴っていた。正門は突破された。南はまだ大丈夫だ。北は東は西はと西方軍が慌てふためいている。そんな中、緋凪と銀牙は地下水路を歩いていた。薄暗い中、白電灯がチカチカと点滅している。

「…怖がったりはしないんだな。」

カツカツと靴を鳴らし一切臆すことなく歩く緋凪にぼそりと銀牙が呟いた。

「あら、可愛いげのない女だって言って構わないのよ。なんなら私がエスコートしてあげた方がいいのかしら?」

「…遠慮する。」

あらそう。と緋凪が先を歩きだす。それに続くように銀牙も歩きだすが、前方から近づいてくる影を見た。銀牙が緋凪を止め二人は武器に手を当て、意識を前方に向ける。

「へぇ、案外美人な女がいるんだな。」

笑みを浮かべ、男が姿を現した。白露、そう後ろで名前を呼びながらつららも二人の前に現れる。

「私達の目的は勧誘じゃないわよ。」

「わかってる。まぁ、残念だな。あんたみたいな綺麗な女ならもっと違う出会い方をしたかったってもんだ。」

白露が緋凪に拳銃を向けた。緋凪も咄嗟に銃を構える。後ろではつららが呆れ、銀牙が緋凪、と止めようとしていた。それもそうだ。地下水路はあくまでも逃げ道としてのものだ。自分達はその見回りにきたに過ぎない。仮に戦っても勝ち目はないだろう。

「安い言葉ね。私はそんなに軽い女じゃないわよ?私を落としたいならもっとマシな誘い方をすることね。」

「は、はははっ!あんた気に入った!!なぁ、つららよ。こいつら始末しちまうには勿体ねぇとは思わねーか?」

「思うもなにも、あなた端っからその気ないじゃない。まぁ、私もそうだけれど。」

目的の読めない二人に緋凪と銀牙は困惑する。戦わないならそれでいい。だが、見逃すということでもないようだ。

「始末しないのはありがたいが、ならお前たちの目的は何なんだ!」

銀牙が叫ぶ。それに反応したのはつららだった。

「解放よ。」

簡潔とした答えだった。つららのその言葉に付け加えるように白露は拳銃を下ろし不信な顔をする二人に話し出した。

「政府が管理する人体実験の破壊。そしてその犠牲者の解放だ。ああ、お前たちは知らないんだったな。ん、違うな。少なくとも、あんたは知っているようだ。」

緋凪が口元を抑えた。知っているも何も緋凪自身それを確認するために特別任務についていたのだ。信じたくはなかったが、根拠と証拠が揃ってしまえば知らぬフリもできない。ふ、と銀牙へと視線を写すと唖然としたような顔をしていた。

「なに、言ってるんだ…」

「あら、貴方も他人事じゃないはずよ。」

つららは平然と言ってのけた。そしてそれは銀牙にとって知りたくなかった情報でもあった。

「政府医療機関「health」って知ってるわよね?」

「…緑、亜…」

緑亜。銀牙の弟の名だった。検査といって連れていかれもう何年も会っていない。それは緋凪も知っていた。そして、今回の任務で脳裏に浮かんだ事でもあった。決してそうであらぬように願った事でもあった。

「なぁ、真実を見る覚悟はあるか?」

白露は二人に近づき問いかけた。迷いはなかったのかもしれない。裏切りと呼ばれても構わなかった。強く頷いた目には決意があった。

「地下に、空白の部屋があるわ。貴方達の知りたい事もそこにあると思う。」

緋凪が相当古いであろう地図を取り出して言った。それっ、と焦った声を出す銀牙を無視し緋凪は続ける。

「私の知りたい事も、そこにある気がするし。協戦、しましょうよ。」

「…正義に現を抜かす奴らばかりだと思ってたわ。」

緋凪の言葉に傍観に徹していたつららは意外そうに呟く。

「間違っちゃいないさ。」

そう、何も間違ってはいない。銀牙の中で西方軍が立てる正義が音を立てて崩れ出していた。正義を語るにはあまりにも不透明だ。

「厄介なのはその正義を盲信する奴らよ。今だから言ってしまうけれど、西方軍にマトモな人なんかいないわ。」

「そりゃ奇遇だ。東方軍にもマトモな奴はいないからな。」


地面を揺らすほど、地上で大きな爆発があった。







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