「今日の恋愛運は...星1、運勢最悪の日か...」

新聞の占いの欄を見てナマエは焦る。普段こういった類のものには興味も示さないナマエだったが、最近になって占いをアテにするようになってきた。そんなところまで追い詰められていたのである。

結婚。

親にも散々言われているが。次々と周りは幸せを勝ち取って、気がついたら独り身は自分だけ、なんてことが現実に起こりそうで。彼氏もいない、というか周りに男がいない。挙句絶賛恋愛下手なナマエにとって結婚など夢のまた夢だった。それでも人並みに結婚願望だってあるし、子供だって欲しい。

「だから独身の部下を紹介して欲しい」

ドーナツにまんまとつられた今日の相談相手・カタクリにそう頼む。彼は蜂蜜のたっぷりかかったドーナツを目にも止まらぬ速さで平らげる。もぐもぐ動くほっぺたが、小動物を彷彿とさせた。

「...なんでおれが」
「今日のドーナツのお礼だと思って。もし向こうがお見合いしたくないって言っても、カタクリがちょっと圧かけて部下に言えば絶対首を縦に振ると思うよ」
「脅迫じゃねェか」

頼みます。このままだと情けないことに貰い手が見つからない。ナマエは手を合わせて頼み込む。

「...残念だが無理だ。戦場で、いつ死ぬかもわからねェ。だから家族なんていないほうがいい」
「そっか...」

カタクリがフルーツの添えられているドーナツを完食した。それだけでは飽き足らず、私の皿まで手を伸ばして手を付けないでいたフルーツを一欠片盗んでいった。私が嫌いな果物も、彼は把握している。

「まあ、ダメ元だったから、いいよ。でも正解だったわー、婚活サイトに登録しておいて」
「...あ?」

なんだろう、カタクリからの視線が凄い気がするが。

「明日、初めて会ってみるの。いい人だといいなぁ」
「...」

ドーナツに添えられていたクリームをフォークでちょんちょんとつついた。やっぱりクリームは女子の心をくすぐる天才だ。その時のナマエは極上の甘さに夢中で、カタクリの鬼の形相に気付けなかった。

「...行くな」
「え?なんで?」
「うるせェ、黙って従え。見合いなんざ行くな」

いきなり豹変したカタクリに驚いたのもあるが、何よりその命令口調が気に障る。

「やだ、行く」
「何度言えばわかる...」
「いや、行くもんね!こうなったら絶対にその人といい感じになってみせる!」

ナマエは怒って立ち上り、そのまま店を出ていく。ドーナツ代、払ってないけどいいよね、向こう金持ちだし。

***

髪も爪もメイクも。念には念を入れて、いつもなら着ないようなモテる女子(風)のファッションにも挑戦してみた。

よし、完璧だ。と心の中で呟いて、家の玄関から一歩踏み出す。

「頑張るぞ...っ!?」

バシャッという音の後に目を開けると、視界が茶色に染まっていた。

「なっ...!」
「悪いな、洋服代は弁償してやる。...いや、昨日のドーナツ代で帳消しだな」

泥だった。そして口元は見えないが笑っているカタクリ。彼は部下に命じて、ご丁寧に私の家の前に泥はね用の窪みも用意していたようだ。

「ちょっ、そこまでして私の幸せを邪魔したい...!?」
「お前が見合い結婚で幸せになれるはずがない」

だから、...とカタクリが続けようとした言葉を遮って、電伝虫のコールが鳴り響く。

「はい、...ええ、わかりました。では」

ナマエは無言でカタクリを睨みつける。

「...お前はこう言う、"お見合い相手に今日のデートをキャンセルされた、絶対にカタクリの仕業でしょ"。そのとおりだ」
「...」

もはや何も言う気力が無くなってしまって、顔を顰めるばかりだった。

「...私、結婚したかったのに...」
「...お前は、わかってねェよ」

悲しみとも怒りともつかない目で、カタクリがナマエを射抜く。

「なんで見合いなんかしたんだ」

おれがいるのになんで、見合いなんかしたんだ。そういった後カタクリは、子供が拗ねたみたいに横を向いてしまった。

「えと...」

唐突すぎて。事情が飲み込めない。色んな疑問や不可解が、雲の如く渦巻き起ってナマエの頭はパンクし、遂に思考停止。

「好きだ、お前が」

色んなことがあってもう訳がわからない。ちゃんと言葉にしてもらわないと確信が持てないくせに、いざ言われるとこれだ。今までの出来事がまるで走馬灯のように頭の中を駆け巡り、そしてそのひとつひとつが身体中の熱をぐんぐん上げていく。

「まだわからねェか、どんだけ鈍感なんだ、お前は...」
「いや、流石に今のでわかったよ!でも...」

い、いつからなの...?ナマエには検討もつかない。

「少なくともお前が思うより前だろうな」

思い当たることが、あるようなないような...。思い出したらキリがなかった。

「おい、返事はまだか」
「そんな、突然言われましても!」

ふと、カタクリについて考えてみる。ハイスペック高身長、女王の息子、大臣職、この人に守られてれば死ぬことはない...。もしかしたら超凡な優良物件が、知らず知らずのうちに私の目の前に転がっていたというのか...?だがその考え抜きで、ナマエは咄嗟に返事をした。

「…ふ、不束者ですが、何卒、これから宜しくお願い致します…」
「ああ、知ってる。なんだって面倒見てやる」


正直、私はカタクリを恋愛対象として見たことは無かった。が、少しだけ芽生えた、一緒に幸せになりたい、この感情をこれから育てていこうと思う。
そしてやはり、彼には私が承諾する未来が見えていたようだ。カタクリは満足そうな笑顔で私の頭を撫でた。



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