忍に必要なのは技術と技量。言葉はいらない。任務の時は心も捨てろ。ずっとそう教わってきた。強い奴に取り入って任務を完璧にこなし、信頼を手にいれ、弱くなったら裏切る。忍びになってからは、その繰り返し。
そのうち噂が広まって、誰も私を信じなくなった。使えるから使う、でも使えなくなったら捨てる。そんな感じだ。
まあ、もともと砂の忍というレッテルは貼られていたが。
砂の里には化け物がいるのか。と、かつて一緒に任務をこなしてきた奴らはみんな聞いてきた。
あの子が"化け物"?なら、心のない私はいったい何だ。
里を出る前、少しの間かまっていた小さな子どもを思い出す。人の通らないところでメソメソ泣いていたのを相手してやったらなつかれた。
今頃何をしてるのやら。
「…………」
何か来た、な。
忍を休業して随分たつが、相変わらず気配を読む癖は抜けない。特に、忍相手のものなら。仕事柄、復讐、なんて奴は少なくない。
わざわざこんな山奥まで来るなんて馬鹿だなあ。
根城から出て、木を飛び移りながら気配のある方と奥に進むだけで猛獣珍獣がたくさんいる山だ。たどり着く前に餌にされてなければいいが。
特に理由もなくそう思う。別に相手がどうなろうと私には関係ないが、死体の処理は面倒だ。
「…が本当にこんなとこにいるのか?」
「…は…なっている」
いた。子どもが三人と成人男性が一人。全員忍。こんなところで実習か?男の方はどこかで見た顔だ。
「…な広れぇのにどうやって探すんだってばよ!」
探し物…何かの任務か。敵でないなら長居は無用だな。帰るか。
背を向けて静かに足に力を込めたとき
「…だけど、あそこの人に案内してもらうってのはど?」
…あそこの"人"?
誰だと思って振り返れば、さっきの男はもう目の前で
………あ、こいつ車輪眼のカカシか。
「うまく気配を消してたけど、残念だったね」
奴が懐からクナイを取り出かた。軽く避けて隣の木に移る。とっさのことで間合いは取れたが、姿を見られてしまった。しくじったか。やっぱり仕事しないと体が鈍る。適当に隙見つけて帰ろ。
「…あれ、君もしかして、」
「あーー!!」
少し緊迫感のある状況で、子どもの声が響いた。それも割と大きな。うるさい。
「いたぁー!見つけたってばよ!」
「ナルトうるさい!」
桜色の女の子が金色の男の子を殴った。たぶん全力で。すごく痛そう。
金色の髪の子どもは「見つけた」と言った。探している何かを見つけたらしい。目の前のコピー忍者も子どもの言葉を聞いて、何か合点がいったかようで戦闘体勢を解いた。
同時にさらさらと小さな粒子が周りを包む。それが砂だとわかるのに時間はかからなかった。過去に見覚えのある術だ。
視界が再び晴れて、考えは確信に変わる。
……ああ、やっぱり。
「…久しぶりだな」
真っ赤な髪。額には"愛"の文字。
「俺のことを、覚えているか」
ぐりぐりぐりぐり。
何年ぶりだろう。随分成長したものだ。頭がちょうどいい高さにある。
「…子ども扱いするな」
頭を撫でていた手をどかされた。物寂しい感覚が手のひらに残る。
「我愛羅が子ども扱いされるなんて…」
「信じられない…」
「それだけ彼女に気を許してるんだねー」
周りを見る。金色桜色コピー忍者。加えて我愛羅か。木の葉と砂の忍がこの森にいったい何しに来たんだろう。
「…お前を探していた」
我愛羅の口から語られたのは大蛇丸による木の葉崩しと、それに伴う同盟成立の事実。そして我愛羅が新たな風影に就任したということだった。
「今砂の里は甚大な人手不足だ。力を貸してほしい」
里に戻ってきてくれないか。
強い意思のこもった目だ。あの頃垣間見えた闇はきっともう宿らないだろう。
良き友人に出会えたんだな
私の口から是の音は出ない。言葉を知らないから。けれど、方法はまだある。
そして彼女は膝まずき、砂の王に頭を垂らす。