「遊べ」
「……」
まだ太陽が上がって間もないというのに、私の主は随分ご機嫌ななめだった。
「…何かありました?」
「……」
「お腹すいたんですか?じゃあちょっと早いけどおやつ作りますね」
「ちげーよ」
ふむ、小さい子の大抵の悩みはおやつがあれば解決できるのんだけどな ジェネレーションギャップか。普通にショックだ。
「そんな暗い顔で遊んでもきっと楽しくありませんよ」
「……」
「どうかしましたか私の王子様」
小さな肩が少し、反応した。実はこれが最終兵器だったりする。おやつの次に。
「…ジルが」
「ジル様が?」
「あいつに"様"なんてつけんじゃねえ」
「…すいません」
おお怖い。危うくまた機嫌を損ねるとこでした。
「ジルが、お前は役立たずだって」
「まあ、目見えませんからね」
気配でなんとなく過ごしてるだけだし。
「一緒にいてもつまんねえって」
「正論です」
遊べることも限られてくるし。
「んで怒んねえんだよ」
「彼の言ってることに間違いがないからです」
目の見えない私は音を聞いて過ごし、そのうち気配もなんとなくわかるようになった。でも仕事はなく、困っていたところをこの屋敷に雇われた。5つほど年の離れた子どもたちのお守りが条件。
「それに、王子が代わりに怒ってくれているので」
「俺はお前の良いとこいっぱい知ってる」
「はい」
「掃除もできるし、料理もできるし、歌も歌える」
子守唄しか知りませんけどね。
「役立たずなんかじゃねえからな」
「はい」
「…なに言われても出て行ったりするなよ」
ああ、そんなこと心配していたのか。
「大丈夫ですよ。私の主は王子だけですから」
「ずっと?」
「はい、ずっとです」
「約束、だからな。破ったら殺すからな」
「じゃあ、殺されないように必ず守りますね」
満足したようで、そこで初めて笑顔を見せてくれた。いや、物理的に見えてはないけど。雰囲気が柔らかくなった。
うん、改めて思う。
「王子、笑った方がかわいいですよ」
「男にかわいいとか言うな!」
「…すみません」
しまった。また機嫌を損ねてしまったかもしれない。