例えば誰かにぶつかってしりもちをつきそうになったとき。ぶつかられた相手が手を伸ばして、腕を掴もうとする。こんなとき、私はとてもいたたまれない気持ちになる。

目の前で呆然としている彼に、申し訳なく感じるのだ。

伸ばした手が、仮に私の腕を掴んだら格好もついたんだろうけれど、生憎私にそれはない。

「腕が消えた!Magic か!?」

「違います」

腕が勝手に消えてたまるか。なんて、口には出せないことを心で思う。

ああ、嫌だ。こんな状況じゃ思い出したくなかったことまで頭の中を駆け巡ってくる。

「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ」

「…大丈夫です。すみませんでした」

「はは、なんで謝ってんだよ」

「だって腕があったら、かっこよく受け止められたのに」

「………」

「………」

「…ぶっ!」

「!?」

皮肉も込めたつもりなのに、何で急に笑い出したんだ。頭大丈夫かこの人。

「そんなこと、言われるなんて、思わなかったぜ」

目に涙が溜まってる。どんだけツボったんだ。

「はあ。おもしれーな、お前。でもな、俺は腕の一本なかろうが次はちゃんと受け止めてやるから安心しろ」

な!と、まだ少し目に涙を溜めて笑顔をつくる。言葉自体は頼もしい。すごく頼もしいんだけど、

「ボタンかけ違えてる人に言われても、説得力ない」

「な、うわ、まじだ!」

「ついでにいうと、腕のボタンも取れかかってますよ」

っかしーな、さっきロマーリオたちと居たときは大丈夫たったのに。と、今度は一人で話し出した。ロマーって誰だろ。

「繕いましょうか?」

「いいのか!?」

手と足を使っても良いなら。そう言うと、頼む!とその場で上着を脱いで渡された。





彼がブラウスまで脱ごうとするのを止めるのはこのすぐ後の話。



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