周囲の人曰く私は"かわいそうな子"らしい。生まれたときから足が不自由でずっと車イスを使っているからだ。でも自分では不便を感じない。最初こそ車イスには手間取ったが、慣れればなんてことない。常人の足と同じように扱える。
だから帽子も日傘も持たずに出掛けてしまったのは明らかに自分のミスだ。頭はもうすっかり温まってる。
「すぐ帰れるはずだったのに…」
まさかスーパーに向かういつもの道が工事中だなんて。知るよしもないよまったく。
「あっつ…」
夏の日差しはギラギラでジリジリ。特に今年は読んで字のごとく、焼ける暑さ。一休みしようにも周りにほどよい影はない。が、幸運にも自販機がある。
よし、水分をとって暑さを乗りきろう。何がいいだろう。わざわざ水を買うのはなんか嫌だ。かといってジュースだと余計に喉が乾くかもしれない。
「…これでいいや」
ボタンを押して、出てきた缶を取り出そうと身をかがめる。いきなり身をかがめたのがいけなかった。
くらり、視界が揺れる。
うぁ、やばい。こんなときに目眩とか勘弁してよ。
「…おいあんた、大丈夫か」
ぼやけた視界に腕が映る。骨格のいい男の腕だった。自販機から出てきたヨーグルッチを差し出している。
「あ、あぁ…すいません、どこか日影に連れて行ってくれませんか」
どこの誰ともわからない人に頼みこむなんて変な話だが、この際日影に連れて行ってくれるなら誰でもいい。
しばらくして車イスが勝手に動きだした。彼が後ろから押してくれてるのか。押してくれるってなんて楽なんだろう。誰かに押してもらうなんていつぶりだ。
***
「それでここまで連れてきたの?優しいねぇ、神崎くん」
「うるせえな。近くて涼しいっつったらここだろーが」
いつの間にか周りは随分騒がしくなっていた。機械的な音が絶え間なく響き、たまに喧騒も混じる。
「これがゲームセンター…!」
「え、君ゲーセン初めてなの?」
長髪の人(たしか夏目って呼ばれてた)の問いかけに是と答えれば驚かれた。行ってはみたかったが、周りに危ないからと禁止されていたのだ。
「か、神崎さんありがとうございます!あ、私今これしかないんですけど、お礼にもらってください」
そう言って先ほど買ったヨーグルッチを差し出せば、心なしか彼の表情が輝いてみえた。気のせいかもしれないが。
「…おう、ついでだ。好きなだけ遊んでけ」
「え、いいんですか!?あ、でも私遊び方知りません」
「俺が教えてやる。まずは格ゲーからだ」
かくげー?なんの略だろう。かくなんとかゲーム、かな。書くゲーム、架空ゲーム…
もんもんと頭をフル回転させた私がかくげーの正体を知るのは、神崎さんが苦労して階段を上った後だった。
(神崎くん単純だなあ)