終わりのある恋だった
少女はウサギを追いかけて落下した。
たどり着いた先は不思議な国だった。
昔読んだ絵本と類似した体験をした。兎を追いかけて穴に落ちたわけじゃない。木から降りられなくなった猫に手を伸ばしたら運悪く枝が折れただけ。間一髪引き寄せた猫は無事だった。
が、落ちた先は全く覚えのない場所で。呆然としてたら近くを通りかかった知らない男の子と目が合って、すごい勢いで近づいてきた。
「ちょっと君大丈夫!?」
「あ、まあ。猫はなんとか死守しました」
ほら。と猫の両脇を支えて見せる。でも少年の表情は晴れなかった。なんで。
「そっちじゃないよ、もう。…ちょっと来て」
少年は私の手を引いて歩きだした。長い廊下を歩く途中、通り過ぎたいくつかの部屋には学年とクラスが書かれた表札があった。どうやらここは学校らしい。
「入って」
促されて入った部屋からは薬品の独特な臭い。学校でこの臭いといったらあそこしかない。
「…保健室か」
「そうだよ。君、自分が怪我してるって気づいてないの?」
「怪我ってほどのもんじゃないし…」
木から落ちたせいで体の所々に枝に引っかかれた痕があるけど全部かすり傷だ。
「だめだよ。どんな小さな傷でもちゃんと消毒しないと。ほっとくと余計酷くなるらね」
ほら腕だして、と言う彼の手にはすでに消毒液が用意されていて、治療する気満々だ。いつもならこのくらいほっとくんだけどな。
「にゃー」
腕の中で猫が鳴いた。猫も心配してるよ。なんて、彼は言う。
「…ずっと気になってたんだけど、」
「なんだい?」
「ここどこ」
「ああ、ここは忍術学園だよ。猫に夢中で気付かなかった?まあ入ってきたのは事故みたいなものだから、小松田さんには僕から言っとくね。出門表にだけサインしてくれたらいいから」
小松田さんって誰だろう。いやそれよりも忍術学園って。そんなアグレッシブな学校あったんだ。学園って言うあたり伝統を感じる。
「はい、終わり。門まで案内するね」
名前も知らない、恩人の背中を追いかける。
とおりゃんせ
とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ
天神様の細道じゃ
行きはよいよい
帰りは怖い
怖いながらもとおりゃんせ
とおりゃんせ
(物語は)
(まだ、始まったばかり)