叶わない恋なんてロマンチックな言葉は似合わない。これは馬鹿がする馬鹿な恋。
物心つく前からいつも隣にいた幼馴染みとは高校に入ってから別々の時間を過ごすことが多くなった。
もともと素行があまり良くなかった彼にはいつもどこかしらに傷があって。最近は無傷だったから安心してたんだけど。
「なに、その傷…」
久々に会った彼は、傷だらけだった。
「……………うるせえ」
予感はあった。お母さんから連絡を受けたときから。
『でね、校舎はもう原形がわからないくらい壊れちゃったんですって!そんなこともあるのね〜お母さんもうびっくりしちゃって。あ、奥さんが言うには本人の怪我はたいしたことないらしいんだけどね。でも大変よね、神崎さん家も。一くん学校どうするのかしら』
学校が崩壊して、イチが巻き込まれて怪我をした。わかったのはそれだけ。でも、それだけで十分だった。
「動いて、平気なの?」
「てめえに関係ねえだろ」
いつからだろう、イチとの間に壁ができたのは。
「イチ、」
「…………」
伸ばした手は拒まれた。でも視線をそらされることはなくて、ただ、見つめあっていた。
「心配したんだ」
お母さんから連絡に息を呑んだ。時間が止まった。頭が真っ白になった。無事だと聞いても不安で仕方なかった。
「心配した。無事で良かった」
「………相変わらず馬鹿だな」
不安と安堵で俯いた私の頭に触れる手は、あったかくて
「この程度で死ぬかよ」
イチの優しさは、不器用でわかりづらい。
「かみ、ざぎ、いち」
「かんざきはじめ、だ。馬鹿かお前」
「…いちほど馬鹿じゃない」
「はじめだっつってんだろ」
(もう慣れたよ)
(背中を見るのは)