縋る
男女間の友情は得てして不安定なもの。たった一言で、壊れるくらい。
「慶次」
「おー楓!どーした?」
「いつになっても教科書返しに来ない人がいるから直談判しに」
「あ、悪ぃ!忘れてた!」
取ってくるわ。とバツが悪そうにそそくさとロッカーに立ち去る慶次の背中を見送ってから、彼の席に座る。
いいな、この席。窓際の一番後ろ。太陽があったかい。
「楓〜教科書これで…って寝てるし」
自分の席に戻ると彼女はすやすやと寝息をたてていた。うーん、起こすのはかわいそうだな。
「Hey,慶次!てめえ俺の辞書勝手に持ってったな!?」
「うわ!梵、しーー!しーー!」
「Ah?」
政宗が視線を下にずらす。
「…いたのか」
「おう!教科書返すの忘れててな。あ、梵の辞書もついでに持ってきたぞ」
「ついでかよ」
呆れて俺の手から辞書を受け取りながらも、政宗は昔と変わらない眼差しで楓を見つめてる。
「…なあ、お前らってまだ関係気まずいの?」
「Ah?」
「いやだって梵と楓が一緒にいるとこ見ねえし」
昔はしょっちゅう一緒にいたのに。
「お前が見ないだけだろ。昨日もこいつ俺んち来たぜ」
「…星の話、しに行った」
「うぉ、なんだ起きたのか」
むくりと突然起き上がった当人は目を擦りながら席をたった。
「次の授業、始まるから」
まだ完全に覚醒してないせいか、言葉がたどたどしい。
「政宗も、ちゃんと授業出なよ」
「うるせー」
俺から教科書を受け取って楓は教室から出て行った。
楓も昔は政宗のことを梵と呼んでた。…そういえばなんで呼ばなくなったか聞いたことあったな。
「期待、しちゃうんじゃないかって。私の心は変わらないんだから、今までみたいに梵って呼ぶんじゃ残酷でしょ?」
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