甘える
走って走って息があがる。
こんなに走ったのいつぶりだ。
彼があまりにスピードを緩めずに走り続けるものだから、体力の旨を話して止まってもらった。
「す、すまぬ」
「あ、私が体力ないだけっから、気にしないで」
こんなに息を乱しながら言ったら説得力なんてない。けれど事実なのだ。体育以外で運動なんてしない。
「…我慢ならなかったのでござる」
「、がまん?」
呼吸は整いつつある。大分楽になった。
「その、政宗殿とあまりに親しくされていた故」
「…幼なじみ、だから」
「うむ。政宗殿からよく話を聞いていたでござる」
「…政宗から?」
なんだ。何を話したんだ。そんな他人に話せるようなことはないはず。
「昔ネコに傘をさしあげて風邪をめされたことがあるとか」
…ほんとに何話してるんだろう。恥ずかしい。
「自らを顧みない優しさに感動いたした」
照れる。何より彼からそんなこと言われるなんて、思ってもみなかった。
「おそらくは、その時から…」
真田くんが押し黙った。拳を固く握ったまま、俯いている。そして何かを決心したように急に顔をあげた。
「山下殿!」
「は、はい!」
びっくりした。いきなり名前を呼ぶものだから思わず勢いよく返事してしまった。
「某は……」
「やっとくっついたね、よかったー」
遠くに見える初々しい恋人たちの姿に佐助は安堵した。走り出したときはどうなるかと思ったが上手くいったようだ。
「…くやしい?」
「………」
竜の旦那はだんまり。表情に変化もない。
「実質二人の恋ってさ、旦那のおかげじゃん。なんとも思わないわけ?」
「俺はお前が思ってるほど未練がましくねえよ」
あいつが幸せならそれでいい、なんて柄にもないこと言うもんだから俺様びっくり。
そういえば、ちょっと前に楓ちゃんが言ってたことを思い出す。
「恋って、人を強くするんですよ」
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