攫う
「間違えてるし」
慶次から返してもらったのは確かに求めてた教科書だった。ただ裏面の名前は自分のものじゃなくて。
「慶次は政宗に頼りすぎだ」
たしか辞書も借りてたず(政宗の返品催促が聞こえた)。第一、政宗から借りてるものをなんで私からも借りたんだ。どっちも同じなのに。さては借りてたこと忘れてたな。
「政宗」
「Ah?なんでお前ここにいんだ?」
「手違いで君の教科書が私のもとに」
「…慶次か」
そういや貸してたな。なんてため息混じりに呟いた。貸した本人が忘れちゃ駄目だろう。まったく。
「政宗は慶次に甘すぎる」
「HA!俺は誰にでも優しいじゃねえか」
いったいどの口がそんなことを言うんだ。私には政宗に催促して貸してもらった覚えがないぞ。
「…理不尽」
「さっきから何ぶつぶつ言ってんだ」
「慶次と私との扱いの差について」
「なんだ、優しくしてほしいのか?」
そりゃあ誰だって厳しいより優しいのほうがいいだろう。アメとムチは均等に与えてほしい。慶次は明らかにアメの割合が多い。
「…優しくしてやろうか?」
「……」
妖しく口元をつり上げてそれはそれはいい笑顔で彼は言った。まるでイタズラを思いついた子どもみたい。
政宗の大きな手が髪に触れる。演劇部にむいてるんじゃないかと考えれたあたり、まだ気持ちに余裕がある自分に感心した。だって政宗のこれはスキンシップみたいなものだし。
だから、政宗の行動には全然驚かないのだけれど
「…っ山下殿!」
今、目の前にいる彼の行動には目を見開いた。
政宗から引き離すように割り込んだ彼は、しっかりと私の手を握って。
「真田、くん」
駆け出した。
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