そこに影はなかった
なぜここにいるのかわからない。
気付いたらここにいた。
高くそびえ立つ建物。
道を行きかう車。
目の前には大勢の人。
すぐにわかった。ここは"外"の世界だと。
おかしい。
僕は今まで音も光も通らないような地下深くに監獄させられていたはずなのに。
はあ。じっとしていても仕方がない。とりあえず、その辺にいる人間を捕まえて情報を集めよう。
「すみませ、ん…!?」
すり抜けた。
たまたま目の前を通った女性の、肩を叩こうとした手が。まるでそこに何もないかのように。
だが、彼女は実体だ。幻覚の類ではない。影もちゃんとある。
彼女だけではない。今こうして立ちすくんでいる間もたくさんの人間が僕をすり抜けていく。
「まさか…」
足元を見る。
実体に触れない理由。それは僕が…
(あの、こんなとこで何してるの?)
(ああ、貴方には僕が見えるのか)