何かが壊れた
知ってしまった
彼女の秘密
「…千里、千里」
何度も何度も名前を呼んだ。いつもは聞こえる声が何も聞こえない。表情も変わらない。…早く覚きろ。起きて、声を聞かせてくれ。
「原因は貴方の歪んだ想いですかねぇ」
とりあえずは様子見だと部屋を出る。リビングに戻った第一声がこれだ。
この冷たく、どこかバカにしたような声音は千里が連れてきた少年のもの。道端で倒れていた千里に憑依して再び家に訪れた、六道骸という名の子ども。
「歪んでなんかねえよ。兄貴はいつだって妹がかわいいもんだ」
「はっ、理解に苦しみますね」
こいつはもう気づいてる。俺の隠したかった、隠し続けたかったこと。真実と混沌させたかった、秘密に。
「いつまで続けるつもりだったんですか。こんなこと、何の意味も持たないというのに」
そんなことお前に言われるまでもねえ。ずっとは続かない。いずれは誰かに暴かれる。わかってたことだ。…わかっていた、はずだ。
「今の状態の方がよっぽど苦しいですよ」
「…なんでお前にそんなことわかるんだ」
「経験者ですから」
訳がわからん。経験?何のだ。死んだことがあるって意味か?やっぱ幽霊かこいつ。
絡む視線。睨み合う二人。先に驚いたような声を出したのは兄だった。
「千里…?」
リビングの入り口のドアに寄りかかっていた影は、びくりと体を揺らしてゆっくりと姿を現した。