綻びに気づく




少し前から雨が静かに降り続いている。小さな雨粒は僕の体に当たることなく落ちて、

「…何を、やってるんですかね」

自分の存在が曖昧なこの世界で、元の世界に戻る手掛かりを見つけるのは正直厳しい。

彼女は、利用できる人材だった。使える駒だった。それなのに、自分から身を引くなんて。

「まったくらしくない」

この世界ではおそらく僕の力は使いものにならない。今の状態だとそのらにいる人間と同じく、無力。だが、彼女の言うように人より幽霊に近いなら憑依くらいはできるだろう。地道に情報を集めるべきか、

「あるいは…」

あの、彼女の兄だという男。おそらく何か知っている。それが僕にとって有益か無益かはわからないが。だが、隠しているということは何かしら意味があるはず。

「仕方ないですねえ。不本意ですがもう一度彼訪ねた方が良さそうだ」

どちらを選ぶかなんて愚問だ。こんなことに時間を費やしてる場合ではない。手段は問わない。どんな手を使ってでも秘密をあばいてやろう。まあ、あの様子だと彼女を人質にするのが一番効率的だろう。

そんな考えが頭をよぎった瞬間、胸にチクリと痛みが走る。しかし、それも一瞬のこと。気にとめるほどのことではない。


雨の中、踵を返して歩き始めた骸はしばらくして再び足を止めるはめになった。

その視線の先には無造作に転がった傘と力なく横たわる彼女がいた。











まどろみに

溶ける言霊

走馬灯

言葉を紡ぐ

あなたはだあれ





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