壊滅
走って走って
早くあの人から離れて
頭の中はそのことばかり。籠から山菜が零れても足を止めなかった。
嫌な感じがする。
アレを見られたのもそうだけど、もっと不吉な感じがする。
頭が、村に戻るなといってる。
「っは、はぁ…」
もう少し。あの楓の木を超えたら村が見える。
いつもの小さな村が、見えてくる。
―――はずだった。
「な、んで…」
見えたのは黒い煙。
村が、襲われている。
「っみん、な」
考えるより先に足が地を蹴った。
見えるのは血を流して倒れてる人、人、人。
昨日までは、生きて、いたのに。普通に喋って、傷の具合とか気にしてくれた、優しい人達だったのに…
無我夢中で自分の家まで走った。
家を見て愕然とした。あまりにも火がまわりすぎてる。今にも崩れそうにも関わらず、まだ形の残ってる入口から迷わず中に飛び込んだ。
「っお母さん!」
煙が多くて視界が悪いうえに炎があちこちで燃えている。さすがに外に逃げだろうかと踵を返そうとしたとき、黒い塊が炎の中に見えた。
「お、かあ…さん?」
紛れもない。その塊は母と判断できるほど、まだ燃えきっていなかった。
赤子の自分を拾ってくれた人が、唯一母と呼んでいた人が、目の前で死んでいた。
「そん、な…」
煙を吸いすぎて視界がかすむ。
力の入らない足が崩れ落ち、意識は闇に溶けていった。[
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