吟味


死んだと思った。
炎の中に飛び込んでその場で力尽きてしまったから。
誰かに助けを求めることもできなくて、息をするのが苦しくなった。

死んだと、思ったのに。

「…ここ」

木目の天井に広い部屋。

伸ばした手には白い包帯が巻かれていて、体は重く、起き上がれない。
自分は生きてるんだと受け入れる他なかった。

どうして。
家が崩れ落ちる音を確かに聞いた。立ち上がることも這うこともできなかったはずなのに。

どうして、生きている――?


「気がついたかね」

近付く足音と同時に紡がれた言葉。
聞き覚えのある、声。

首から上だけを動かして視界に映ったのは、二度と会いたくなかった男。
私の、幸福破壊者。

「……あなたが、助けた?」

自分の口から出た声は、自分のものじゃないんじゃないかと思うくらい小さく、掠れてた。

「ああ勘違いしないでくれたまえ。卿の力に興味があったから助けたまで」

「私の、力…」

「卿の息吹で花を潤わせただろう?」

ああそうか、この人は。善意で助けたわけじゃない。言ってしまえば気まぐれのようなもの。

たまたま見た、私の異質な力に、興味があっただけ。

それならば――

「…私、何も持ってません」

「……」

「何か、見間違え、て……」

瞼が閉じて暗闇が広がってくる。

彼は腕を組んで黙ったまま。

言いたいことは言った。もう救われる意義はない。

きっとこれが、最初で最後の嘘。


もうすぐ、お母さんに会える。






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