秘密


とある山奥に小さな小さな村がある。昔は若者が多く活気があったこの村も今では数えるほどしか人がいない。
さらにここ数年、この村の入口に赤子が捨てられていることが多くなった。

拾われる赤子もいれば、獣に喰われる赤子もいる。
当然のことだ。むしろ拾われた赤子はかなりの幸せ者といっていいだろう。弱肉強食なこの戦国乱世の時代では、赤子1人養うことすら難しいのだから。

「何やってんだい!さっさと食糧採ってきな!!」

村に悲鳴のような女の叫び声が響く。外まで聞こえているが、気にとめる者はいない。いつものことなのだ。彼女が自分の子どもを怒鳴ることなど。

子どもといっても血の繋がりはない。彼女が数年前に村の入口で拾った子だ。当時は夫と共に仲睦まじく暮らしていたが、夫が流行病で亡くなると彼女はその悲しみをまだ幼かった少女にぶつけた。

「……ごめん、なさい」

あれから何年か時が流れた。少女はまだ母親から暴力を受けている。

少女は堪えて、ただ謝るだけ。どれだけ物を投げつけられても。どれだけ痛めつけられても。自分に非があると思っているから。

そんな少女が、母親のためにと初めたのが食糧集めだ。母親が喜ぶ顔が見たくて、少女は毎日裸足で山を駆けた。

深く広い山を駆け巡り、食べられそうな物は片っ端から集め、お気に入りの草原で一休みしてから家に戻る。
もはや日課となっている。

「キノコ、木の実、リンゴ、ツツジ…」

背中に背負っていた籠から収穫物を取り出す。

今日はいつもよりたくさん収穫できたな…。この間の大雨で田んぼも潤ってた。

収穫物は食べれる物とそうでない物をちゃんと確認してから持って帰る。過去に腐った果実を持って帰ってしまい、怒られてしまったことがあるからだ。それ以来ここでの確認は怠らない。

「あ…」

籠の中からツツジを一輪取り出す。

「……しおれてる」

そのツツジは他のものに比べて元気がなかった。

「ふ――・・・」

少女には異質な力があった。物心がつく前からあった、母親にすら秘密にしている力。

少女がツツジに息を吹きかけると、ツツジはみるみる生気を取り戻していった。







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