「ルナ」
その名を呼べば、くるりと身を翻して走ってくる。
「なぁに?サターン」
わたしを見つめる、その瞳。言葉を紡いでゆく、その唇。
思わず触れてしまえば手の中で消えてしまいそうな。そんな印象…。
十年という年月を経た今でさえ、それは変わらなくて。
わたしの『唯一守りたいもの』といったらルナだろう。それ程に。
ルナはマーズと同い年だが見た目は大分違う。
そう、まるで妹みたいな感覚だった。
「サターン?ねぇ、どうしたの?」
不意に後ろから名前を呼ばれ、わたしは振り返る。
「ほら、ルナ。髪に何か付いてるぞ」
そうやってわたしはルナの髪に付いた汚れを落としてやる。
「うん、ありがとう。でもサターン、私だって何時までも子供じゃないわ。もう16だもの」
別にわたしは、ルナを子供扱いしている訳ではない。
なんというか…癖なのだ。
「あぁ、すまない。そうだな」
可愛くて仕方がない。と思うのと同時に、やはり心配なのだ。
「あ、そうだ!私ね最近お菓子作りにはまってて…。仕事、今ない?」
ごそごそとポケットをあさっている。
「あった!はいこれ!作ってみたの。食べてくれる?」
ルナのポケットはどんな仕組みになっているのか少し気になったが、そこには触れないでおく。
「ありがとう、ルナ」
少し微笑みながら言うと、ルナもふわりと笑った。
マドレーヌはレモン味
(美味しい)(本当?良かった…)
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