「ロゼ、おはよう」

 「おはよう リドル」


 毎日交わす、普通の挨拶。
 ただそれだけの事でも羨ましがる人はそう少なくなかった。
 彼女――ロゼさえ居なければ。そう言う人もいただろう。
 だが誰一人、彼女に手を出す者はいなかった。そう、男であっても女であってもだ。



 トム・リドルはホグワーツに入学してからの殆どの時間をロゼと過ごした。
 彼女は最高の友人でもあり、恋愛対象でもあった。来年はホグワーツで過ごす最後の年。
 ロゼと共に居られる時を大切にしたいと思っていた。







 ◇







 「ロゼ…ちょっと話があるんだ」

 最終授業の薬草学が終わってから、私はリドルに呼び出された。
 リドルはこの学校に入学してからの初めての友達。
 長い年月を共に過ごしていたからか、いつしか彼に恋心を抱くようになっていた。
 彼は人気がある。それこそ女子にも男子にも。
 リドルが女の子に笑顔を向けているのを見るといつも胸がきゅっと締め付けられた。



 こんなの只の我儘だって分かっているけど

 『その笑顔は私だけに向けてよ』

 こんな言葉がいつ、自分の口から飛び出すか怖くて仕方がなかった。
 だから早く全てを私の物にすればいいのに。そうも思うのだが。






 「ロゼ、今更なんだけど僕と付き合ってくれないか」

 「…!」


 今、私が欲しかった一番の言葉。
 でも全て私の物になったら…?今まで以上の束縛で彼を苦しめてしまうかもしれない。



 だから、

 「リドル 私は…」

 言いかけたが言葉が出てこない。嗚呼なんて臆病なんだろう。
 情けない自分に本当に嫌気がさす。




 「君の思っているような心配はいらないよ、ロゼ」

 心を見透かしたような的確な答え。
 答えが出たようだね。と薄く笑う。
 あぁ、何故この人はこんなにも私のことを分かってくれているのだろう。




 「じゃあ行こうかロゼ」

 コクリと頷き、私はリドルの手を取った。






 可愛いままの私でいさせて
 (どうしたのロゼ)(お腹減った…)

.配布元:Traum Raum
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