あれ、あれれ。なんだか精市が物凄く怒っているように見える。
   気のせいだといいんだけど…。いや、気のせいじゃなかったら
   私の命はない。かもしれない。いくら魔王とか言われてる精市でも
   可愛い彼女をあの世送りにするということはないだろう。
   私、信じるよ…?


   その間にも精市はとびっきりの笑顔で私に近づいて来る。
   私には二つの選択肢がある。ここで逃げるか逃げないか。
   だけど、どっちを取ったとしても結果は同じだということも  
   明確だったのだ。



   「(殺られる…!)」



   自分の短い人生の終了が決まっているなら私は逃げる!
   そう決心して私はテニスコートの端で休憩している蓮二の
   所へダッシュした。ここまで走れば追っては来ないはず。
   そう期待を込めて振り返った私の三十センチくらい前には精市が。


   あれ?私、ちゃんと逃げてきたよね。なのに何で精市との
   間の距離が変わってないんだろう。おっかしいなぁ。
   兎に角、自分で考えてても分からなそうだったから少し歩いて
   蓮二に話しかける。




   「ねぇ、蓮二」

   「どうしたなまえ?」

   「今私さぁ、ここまで走って来たよね?」

   「あぁ、走って来てたな」



   うん。やっぱり私はちゃんと走って来てたみたい。
   じゃあ精市は?もし歩いて私について来たのだとしたら
   やっぱり魔王だったということになる。
   そして再び振り返れば先程よりもっと近い距離に精市は
   立っているのだ。




   「……」

   「ははっ、なまえどうしたのかな。そんなに固まって」

   「ぎゃあああ!助けて蓮二!」




   魔王も上回るようなスピードで柳の背中に隠れたなまえは
   ぎゅうっと柳の練習着を掴む。その仕草がまた幸村を苛立たせた。
   「れ、蓮二…。精市はやっぱり魔王だったんだ…助けて…!」
   「柳…なまえを渡してくれないかな」
   柳は幸村となまえを一回ずつちらりと見ると、なまえをぐいと
   前に押し出した。その行動になまえはジタバタと暴れる。


   

   「なまえ、きっと精市はそういう行動が嫌なのだろう」
   
   「…? そういう行動?」 
 
   「そうだ。お前の俺に対するそういう行動だ」

   「はは、柳は真田と違って理解力があるから助かるよ」

   「?」



   ふっと柳は微笑むと、なまえの背中をトンと押して幸村の方へ
   行かせた。当の本人は今までの会話の内容もろくに理解できて
   いなかったらしく涙目状態だ。幸村はそんななまえの手を引く。





   「大丈夫、なまえ。怒らないから一緒に来て?」

   「怒らない?本当?」

   「うん。本当」

   「精市、あまりなまえを困らせるなよ」

   「あぁ…分かってるよ」








   その後私は精市の問いの答えとして二つの選択肢を与えられた。
   はい or YES。どちらを選んでも答えは同じ。だけど私としては
   嫌な問いじゃなかったので取り合えずイエスと答えておく。
   だって英語で聞かれたからさ。



   Could you kiss me?
   (精市、キスすきなの?)(ん?なまえとのならね)

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