「なまえ先輩!」
「うわっ、赤也…?」
いつもの通り部活が始まる前に必要な道具を揃えておこうと
部室からコートへ移動する途中のことだった。
急にずしりと背中に体重がかかった。赤也の方が背が高いので
彼のもしゃもしゃな髪の毛が視界の上の方に映る。
「どうしたの赤也。またこんな所にいたら弦一郎に怒られるよ?」
「あー…。副部長はまだ来てないから大丈夫っス!」
コートの方を少し気にしつつそう言った後、何故か赤也はその場所を動かずに
ちらちらと私の方を見てはまた足元に視線を戻していた。
「…?」
「あの、先輩…!」
「なに?」
「キスしてください!」
がばっと顔を上げて私の肩を掴むと必死に見詰めてくる。
いつも必ずといっていいほど語尾についている、〜っス!という
言葉も無いあたり、かなり頑張っているようだ。
目なんか精市に遊ばれている時のようにうるうるの涙目になっていた。
「え、な…なんで?」
「なんでもっス…。お願いですよ先輩!」
うぐ…。これはいけない本当に。捨て猫を拾わずには帰れない人の気持ちだ。
私はちらりとコートの方を気にすると、再び赤也に向き直った。
「い、一回だけだからね?」
「はいっス!」
「ほ、頬っぺただからね?」
「はいっス!」
私はかなり頑張ってぐぐっと背伸びをすると、軽く頬に口付けた。
赤也があんまりにも無邪気に笑うものだから悪くないかな。なんて思ってしまったんだ。
純粋無垢
(赤也、さっきなにをしてたのかな?)(ひっ、幸村部長…!)
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