ちょこちょこと虎次郎の後ろを付いて回るなまえを見て、仲の良い兄妹のようだと言って微笑む男子学生達がいる。そんな二人を快く思っていない人物が近くにいるということなど、彼らは知らないのだろう。中学三年男子にしては背の低い方である俺よりも小さくて可愛らしいなまえ。彼女は女子からも人気だった為に、ファンクラブに目をつけられる事もなかった。不意に風が吹いて長い自分の髪が目にかかる。


「なまえ」


控えめの声で呼んだはずなのに、すぐさま気づいて虎次郎の後を追うのを止めたなまえは真っ直ぐこちらへ歩いてきた。綺麗で艶やかな髪がふわりと風に揺れる。



「亮くん、どうしたの?」

「え……」



最初から用があって呼んだ訳では無かったので、返事に詰まってしまう。それでもなまえは不審がる様子ひとつ見せずに俺の言葉を待っていた。


「なまえ、髪の毛暑いでしょ?だから結んであげようと思ってね」

「本当?ありがとう、亮くん!」




去年の誕生日だっただろうか。誰かから貰ったプレゼントに結んであった水色のリボン。とにかくなまえを呼んだ口実が出来たのでリボンには感謝だ。


「はい、できた」


自分では確認することが出来ないので、何色?と俺に尋ねる。水色だよ、と彼女に告げれば、予想以上に喜んだ。水色はなまえの好きな色なんだそうだ。




「じゃあね、私も亮くんの髪の毛結んであげるね」

「なまえ髪留め持ってたの?」

「うん」




それは失敗した…と後悔をしていると、すぐに後ろからできた!という声が聞こえた。さすがは女の子、手先が器用だ。


「あれ、これもリボン?」

「うん。そうだよ、ピンク色のリボン!」

「普通反対だよね、女の子がピンクで男が水色」

「でも普通の男の子だったらリボンで結べるくらい髪長くないもん」

「そうだね……」




「でもね、私、亮くんの髪の毛好きなんだ。さらさらでいい匂いがするの」


そう言ったなまえは後ろから俺の背に抱き着いて、髪の毛に顔を埋めた。そして俺はまるで漫画のようにラケットをコートに落とすんだ。





時が止まった気がした
(ぐぬぬ…なまえさんまで…!)(まぁまぁ剣太郎…)

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