「せーいちっ!」

 昼休み、職員室から教室へ向かう為に階段を上っていると急に抱きつかれる。
 そこら辺の女達とは違う。可愛い俺のなまえ。
 後ろからがっちり腰を固められている為、肝心の彼女の姿は見えないが
 くしゃりと頭を撫でた。




 「精市、何やってたの?」

 「先生の所に行ってたんだよ。そういうなまえはなにしてたの?」

 「えっとね、精市探したらいなかったから弦一郎の所行こうと思ったら
  ブン太と雅治に会ってそれから……なんだっけ?」

 「そっか。じゃあ弦一郎にはまだ会っていないんだね」

 「あっ、そうだった…」



 そう言うと頬を人差し指で掻きながらふにゃりと笑った。
 俺は何だか気が抜けるというか、心が和むこの笑顔が好きだった。
 自分より二歩ぐらい前をひょこひょこと歩く姿もとても可愛い。
 そうだな、動物に喩えるなら生まれたてのヒヨコ。



 なまえがいるにも関わらず、五月蝿い女子生徒は寄ってくる。
 適当に返事をしつつ廊下を進むがやはりスピードに差が出てきてしまう。
 そしてなまえと三メートルほど間隔が空き、俺が少し気を逸らした時だった。



 多分床が濡れていたのだろう。廊下になまえがすてーんと転がった。
 俺は女達のお陰でとっさに動けない。そこは丁度F組の後ろドアの前。
 席が近辺だった為か柳がなまえの傍まで行って立たせた。







 「なまえ、大丈夫か?」

 「……」

 なまえが転んだのはF組の水道の前で、誰かが零したのかびしょびしょで
 そこで転んでしまったなまえの制服も勿論びしょびしょだった。
 しかもそれだけではなく膝も少し擦り剥いていて赤くなっていた。



 「なまえ!」

 ようやく邪魔な女子生徒を押しのけて、幸村が駆け寄ってきた。
 そしてついになまえが肩を振るわせ始めた。泣いてしまっている。
 柳も幸村も対応に困った。まだ大泣きしてくれた方がやりやすいだろう。






 「なまえ、大丈夫?まず保健室に行こうか、制服も…」

 「うわあああああん!」

 「じゃあ幸村。後は任せた」

 泣きながら勢い良く抱きついてきたなまえを微妙な体制で支えることが出来ず、
 一緒に後ろに倒れる。あぁ、俺の制服もびしょ濡れだ。




 「ほらなまえ、保健室に行こう。俺も替えの制服を貸して貰わないといけないみたい」

 なまえの柔らかい手を握ってやる。水で濡れているセーターでぐしぐしと
 顔を拭ったままだったが、俺の言葉にこくりと頷いた。








 手のかかるお姫様
 (どうした柳?)(俺が先に声掛けたのに…)

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