空を見上げればうざったいほどの快晴で、飲んだら絶対美味しそうな
   ソーダ色だった。目を閉じて耳を澄ませばしゅわしゅわと弾ける爽快
   な音が聞こえてくるんじゃないかって思って目蓋を下ろすけれども、
   世の中はそう上手く出来ていないことを思い知らされただけだった。



   はぁ、と溜息をつくけれども返ってくるのはカラスの鳴き声だけで。
   小さな声でばーか。と呟いてみるけれどもそんなの鳥相手に通じる訳
   もなくて。もう一度溜息をつくと目の前に綺麗なガーベラの花がさっと
   差し出された。何も考えることの無かった脳みそは上手く反応しなくて
   暫くそれを見詰めた後にやっと我に返った。全部この空のせいなんだよ。








   「なにしてるの、なまえ」

   「精市…うん。なんでもないんだけどね」







   精市はそっか。と呟いて今の私みたいに窓の外に向かって手をかざした。
   私がそうするよりもずっと空に近い高さに上がる腕。そしてその大きな掌
   が私の視界に映っていた太陽をすっかり隠してしまった。その行為に私は
   少しだけ顔をしかめる。別に嫌だった訳じゃないのに、精市は少し笑いな
   がらごめんと謝った。本当に精市はよく分からない人だ。




   こんなに綺麗なのにテニスが強くて皆の上に立ってまとめ上げる部長で。
   私の中の精市は、毎日沢山の女の子に囲まれて腕いっぱいにラブレターを
   貰って。心の中でどんなに毒を吐いても表面上だけは優しく接している。
   そんな感じなのに。それになんだろう。


  

   スポーツをしている中学三年生の男の子っていったら、顔にニキビの一つ
   くらいあっても良いのではないだろうか。見れば見るほど色白で繊細で、
   どっからどう見ても綺麗なお肌だった。衝動的に頬をつまんでしまえば
   どうしたの、と笑った。嗚呼、こんな人が男なのがいけないんだ。
   そして私は先程の空のことを思い出す。








   「もし私に羽が生えてたら、とっくに宇宙に飛び出してるかもしれない」

   「へぇ。それは少し困るな」

   「なんで?」

   「じゃあ俺に羽が生えたらなまえを追って宇宙に行くよ」








   精市は私の問いには答えなかったけど、その代わりに私の頬をむにっと
   掴んで一人だけ楽しそうに笑った。何が面白いのか私にはさっぱり分か
   らない。けれどもう一度空を見上げたら、さっきまで我が物顔でこの
   ちっぽけな世界を見下ろしていた太陽に雲がかかっていた。何だかそれ
   がとても愉快で思わず私も笑みを零した。














   
   (そこにはね、薔薇とチューリップが沢山咲いてるの)(それは良い所だね)

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