「ねぇねぇ、跡部さん」

  私が制服の裾を引っ張ってにこにこと笑えば、目の前の彼は明らかに
  なんだこいつは。といったような表情を浮かべた。予想していた反応と
  ほぼ100パーセント同じだった。



  「なんだなまえ…それとその呼び方は止めろ」

  「はいはい分かったよ、景吾」

  ちょっといつもと呼び方変えたからって頭が可笑しいみたいな
  目で見なくても良いと思う。跡部っていう苗字も結構いけてると
  思う。少なくとも私よりは。だけど実際今はこんな事どうでもいい。







  今日は氷帝学園中学部の卒業式だったのだ。景吾は高等部へ進む
  らしいが、私は外部の学校を受験した。景吾は私に氷帝にそのまま
  行けと言ってくれたが、私にはやりたいことがあった。


  だから今日で景吾と、今まで多くの時間を共有してきたテニス部
  メンバーともお別れなのだ。一緒に学校生活を送ることが出来ない
  のはとても悲しい。


  先程大量に流してしまった涙のせいで目がひりひりと痛む。
  侑士や岳人達と部室で軽くパーティーをやった後、私と景吾は
  屋上に来ていた。特徴的な髪の跳ねが風でふさふさと揺れる。






  そして立ち止まってこちらを振り返る。綺麗な夕日をバックに
  背負っている景吾はいつもの数十倍かっこよかった。
  そして、すっと腕を伸ばすと私を自分の方に引き寄せた。
  普段の彼は俺様気質で自己中心でこれ以上無いっていうくらい
  私を含む周りの人を振り回していたけど、二人きりの時は
  決まっていつも優しかった。


  私に触れる手、腕その言葉。どれをとっても柔らかい。
  その温もりにやっと締まりかけた涙腺が再び緩む。あっという間に
  涙が視界を歪ませた。だけどそれも束の間ですぐに瞼に唇が触れる。
  なんだか急に恥ずかしくなってがしがしと乱暴に涙を拭えば、
  腫れるぞ?といって彼は控えめに微笑んだ。







  「ねぇ景吾」

  「…なんだ?」

  「捨てないでね、私のこと」

  「はっ、そんなことするかよ ばーか」


  そして人差し指で私の額をツンと突っつくと強引に唇を重ねた。
  こんな人の彼女になっただなんて今でも嘘みたいだけど、私にとって
  すごい大事なものだったんだなって。


  少し寂しい思いをしてから分かったんだ。
  










  涙とか笑顔とか、愛してるとか愛してたとか、そんな言葉で僕らは造られていた
  (景吾だいすき…!)(お前の口から初めて聞いたぜ)

  title by  哀哀

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