周りをウロウロして戸惑いがちに話しかけてくる女子生徒の声も、
春の陽気に香り付けしてゆったりと運んでくる風も今ばかりは全く
気にならなかった。俺の視界は目の前の彼女が独占中なのだから。
彼女とは付き合っている訳でもなんでもない。だけどお互い一緒に
いると落ち着いて、何だか気持ちが和む。そう思っているのが俺だけ
じゃないといいのだけれども。高すぎず低すぎない兎の跳ねるような
声がたまらなく愛しい。今ここでぎゅっと抱き締めたら彼女は何て
言うのだろうか。
精市君は優しい。いつもお昼休みになるとわざわざ席を移動して私の
所に来て色んな話を聞かせてくれる。部活のこととか、精市君の友達の
こととか。あ、こないだは数学で分からない所を教えて貰ったんだっけ。
部活がある日でもただ一緒に帰って、普通に一日が終わる。
私の友達はみんないいな、とか羨ましいとか言うんだけれども、私に
とっては毎日のことで当たり前のことだから良く分からなかった。
でもね、精市君。きっと私多分…精市君のことが好きなんだなって思った。
その時丁度、昼休みの終わりのチャイムが鳴って各々席に戻っていく。
そして開け放された窓からふわりと甘い風が吹き込んできた。
「今日も待っててくれる?」
「うん、一緒に帰ろう」
メロウガールと正しい恋をする方法
◎距離感さまに提出しました。 title by Aコース
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