「いーやーだー!」
 
 いつものように部活が終わり、主にレギュラー陣と帰り道を
 歩いていると、誰かが全速力でこちらへ引き返してくる。
 それはよく見ればなまえだった。今日は委員会で一緒に帰れない
 から、と言われていたので驚いた。




 「あっ、精市!丁度良かった助けて!」
   
 顔を上げて俺の姿を確認したなまえの表情は、もうこれとない位
 必死そのものだった。スカートにローファーという格好なのに
 …走るのが速い。なまえはぐんぐん近づいてきて俺に抱きついた。
 訳ではなく飛び乗ったに近かった。そしてその後足元に感じる違和感。




   

 「猫…?」
   
 「こ、怖いよ精市助けてよ…!」
   
 なまえは腕の力だけで幸村にしがみ付いていた。そして下に
 山ほどいる猫から逃れる為に腰から下を上にぐっと引き上げている。
 これは尊敬すべき腹筋だ。膝裏に腕を通して支えてやれば、
 やっと体から力が抜けた。目には大量の涙が零れずに溜まっている。



 「どうしたのなまえ、猫嫌いだったっけ?」
 
 なまえはこくこくと激しく首を縦に振り、再びぎゅうっと俺に
 抱きついて肩に顔を押し付けた。ブラウス越しにじわりと涙の
 感触が伝わってくる。




 「幸村、どうするのだ?その猫は」
   
 「でも何でなまえ先輩を追っかけてたんスかねぇ?」
   
 「さぁ?どうしようか。とりあえず歩こう、着いて来ないかもしれないしね」
   

 猫の塊をひょいっと飛び越えて歩き出すも一向に逃げる様子を見せない。
 本当になまえは何をしたんだろうと思い、すぐ斜め下にある
 後頭部を見詰めるも彼女は微動だにしなかった。




 








 「じゃあな、幸村」

 「うん、また明日」


 一緒に帰っていたメンバーも各々家に帰って行き、とうとうなまえと
 二人だけになってしまった。当の本人はまだ俺にしっかりと捕まったまま。
 後ろには大量の猫。道行く人々も不思議そうな目で俺達を見ている。
 そしてとうとう家についてしまった。…後ろにはまだ大量の猫。





 「なまえ、もう俺の家なんだけど。一人で帰れる?」

 「ん…?」


 途中で寝てしまっていたのか、寝ぼけた様子で俺の顔、そして次に
 大量の猫を見ると弾けたようにぱっちりと目を開いて首を横に
 ぶんぶんと振った。





 「無理だよ…。一人でなんて帰れないよ…!」

 また、ぽろぽろと涙が頬を伝った。弱った。なまえにここまで
 言われたら俺は確実に断ることが出来ない。でも別に嫌じゃないんだ
 後で貰える『お礼』という名の幸福が必ず待っているだけだから。




 「それじゃあ俺が送るから、帰ろう?一緒に」

 それからなまえはこくんと頷いて俺の頬にちゅっと口付けた。
 参ったな。これだからなまえの世話は辞められない。









 猫なんて嫌い!
 (家まで送って貰ってごめんなさいね、精市君)(いえ、一晩泊めて頂けるようなので)(…?)

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