辺りに飛び散る鮮血、鼻につく血生臭さ。
この地獄絵図のような光景から既に手遅れだという事を静かに悟った。
珍しくあがる息が事の重大さを象徴する。
探すのは只一人の女の姿。
山のような死体を避けながらひたすら走れば、やっと何人か
生きている奴を見かけるようになった。
は、と一瞬だけとまる呼吸。木にもたれ掛かり、ぐったりとしているのは
間違い無くワルツだった。
「ワルツ…」
声を掛ければ頭を上げてふっと笑みを零した。
「私、」
口を開いて言葉を発しようとするが、痛みに顔を歪める。
「ワルツ、こんな所で眠ってたら風邪ひいちゃうよ?」
気持ちとは裏腹ににこりと微笑みかける。
「だからさ、もう帰ろっか。ね?」
「う、ん。連れて帰って…」
血で濡れた手で僕の頬をそっと撫ぜると、“いままで、ありがとう”
という言葉と共に全身の力が抜けた。
体全体が血だらけであるのに、白く美しい肌は変わらなかった。
「今までありがとう、か」
宙を見上げれば満月が明るく戦場を照らし出していた。
ぽたりと自分の手に水滴が落ちてきたのを見ると、そこには紅い雫。
「ねぇ、なんだろうワルツ。なんだか凄く悲しいんだけど、僕」
頬には身に覚えの無い涙。
今まで守るものも無く、守る意味も知らず暮らしてきた。
僕に初めてそれを与えてくれたワルツ。
「僕はもう何も守れないよ、 」
きゅっと苦しくなる喉。熱いものが一気に溢れ出す。
いっそ君といたこの時間を、空間を全て消してしまえばいいのかな。
ねぇ、ワルツ。
君が消えたこの世界
(君を失くした僕は)(この世界で何をすればいいのかな)
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