キーボードを叩く手を再び休めて声を掛けてみるが、此方を見向きもしない。


 「ねぇワルツ…」

 法衣を身にまといながらパソコンを扱う光景も大いに異様だが、
 筋一本動かさずに兎のぬいぐるみを抱きしめ続ける少女の姿もまた異様だった。




 「そんなにウサギちゃんばっかりに構ってると流石に嫉妬しちゃうな〜」

 ねぇ?と耳元で囁く。それと同時に腕の中のうさぎはバラバラになった。



 「あー!私のうさぎ!!」

 「ワルツが返事してくれないからでしょ」



 綿と布切れが無残に床に散らばる。

 「…烏哭なんか知らないもん…」




 元からかなり潤っている瞳に薄らと涙が浮かぶ。

 「ごめんねぇ。この実験が終わったらずっと一緒にいてあげるから…」

 今度は枕に隠れていてよく見えないが、ワルツが少しだけこちらを向いた気がした。



 「…じゃあさ、今度はピンクで作ってくれる?うさぎ…」

 ぎゅっと枕に込める力が強くなる。この歳にしては実に可愛らしい仕草である。


 「うん、いくつでも」

 「じゃあ、待ってる…」





 そう言うとワルツはまた顔を枕に埋めてしまう。パソコンに視線を戻そうと
 手をかけるが、その手はキーボードへ辿り着くことは無かった。


 「おいで、ワルツ。ぎゅってしてあげる」

 遠慮がちに、でも素直に腕に収まるワルツがとても愛おしく思える。
 くすりと笑うと彼女の色白い頬に唇をおとした。






 
 (君には甘いんだよねぇ、僕)

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