「今日はどんなお話を聞かせて下さるの?」

 月の綺麗な夜にやってくる、黒い法衣の男の人。
 外に滅多に出られない私に色々な話を聞かせてくれる。



 「そうだなァ、それじゃあお姫様。烏の話をご存知ですか?」

 烏、とは空を自由に舞っている漆黒の鳥のこと…。まるでこの人のような。


 「いいえ…」

 「最近この辺りのよく熟れた柿を次から次へと喰らっているそうですよ」

 「まぁ…。それは、柿売りの方は困っているのではないですか?」

 するとその男はにこりと笑って姫へと歩み寄る。



 「烏というものは非常に貪欲、他の事など気にも留めず
  自分の欲望のみに忠実…そういう生き物ですよ」

 私の手をとり、甲に軽く口付ける。


 「まるで自分が烏かのように言うのね」

 「僕は…烏哭、」

 「うこく?」

 そういえば聞いてませんでしたねぇ、名前。と笑う。


 「私はワルツです」

 「ワルツちゃんかぁ、うん。いい名前」

 良い名前、なんて言われたことが無かった。
 烏哭は法衣をはためかせ、開け放たれている外廊下へと歩き出す。



 「あ、あの…。次はいつ会えますか…?」

 月明りに照らされた顔がとても綺麗で思わず息を呑む。


 「次、ねぇ…?君が熟れた柿になった頃かな」

 すると後方でドアのノック音が響き、そちらに意識を向けた。




 「あ、烏哭さ…」

 たった一瞬、本当に一瞬目を離した間に烏哭さんは姿を消していた。
 地上から15メートル程あるこの高さを一体どうやって。


 「私が熟れた柿とは…どういう意味なのでしょう」

 月に問いかけるように空を見上げれば、一羽の烏が紺碧の空間を舞っていた。





 「楽しみに待っています、カラスさん」





 また月の夜に再会を
 (完熟果実を頂きに参ります)

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