もう部屋を出てから、何日同じ夕日を眺めただろうか。

 辺りはいつものように段々と暗く、気温は下がって寒くなる。




 
 「烏哭…」




 愛しい人の名前を呼んでも返ってきたのは枯葉が地面に落ちる音。
 虚しさも倍増である。


 事の発端は5日前ぐらいだったかもしれない。

 急用が入った、と言って部屋を出た烏哭を追いかけようと
 すぐに後を追ってドアを開けたが、彼は影すらも残していなかった。





 いつもそう、掴もうとしても消えてしまう。だから今回は諦めずにひたすら走った。
 まだ近くにいるかもしれない、という淡い期待を胸にして。その結果。




 この通り見事に迷子である。消え去った烏哭の姿を見かける事もなく
 引くにも引けずに途方に暮れていた。
 辺りは完全に真っ暗だ。烏哭の色、闇。
 心細さは限界にまで膨れ上がり、瞳には涙が溜まる。



 急用と言って出かけたんだ。そんな早くは帰って来ない。
 諦めて自分の髪に顔を埋めた途端、後ろからぎゅっと抱きしめられた。






 「みーつけた」

 お腹に回る温かい腕。今まで我慢していた涙が一気に溢れ出し、頬を伝う。




 「うこく…?」

 「うん、烏哭」

 零れた涙を優しく指で拭ってくれる。
 ふわりと私を包み込む法衣が私に安心を与える。




 「烏哭、寂しかった…」

 「うん僕も」

 「嘘つき、」


 何故だか可笑しくて、ふふっと笑みが漏れる。


 「泣いた烏がもう笑ってる」

 「烏は烏哭でしょ?」



 ひょいと私を抱き上げて身軽に歩き出す。
 ざっざっと地面を擦る音が耳に響く。



 「実はね、昨日から見つけてたんだ。ワルツちゃんのこと」

 「…!馬鹿!!」



 私が烏哭を探して森を彷徨っていたのを楽しみながら見ていたというのか。



 「泣いたら連れて帰ろうと思ったんだけどなぁ」

 なかなか泣き出さないんだもんね、と笑う。







 「笑い事じゃないよ!いつも私を置いてって…!」

 続けようとした言葉は彼の口付けによって遮られる。
 離した唇を耳元に近づけ、そっと囁く。


 「それだけ僕が好きだってことでしょ?」






 闇にそっと口付けを
 (迷子の兎が自ら闇に向かっていくの)

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