彼はいつも笑顔で、それでまた人柄が良いのだろう。
自然と彼の周りには人が集まっていた。
‐天敵と×××‐
「…っ!」
中庭を猛スピードで走るツバサ。後ろから追いかけてくるものが恐ろしいからか、若干顔が青ざめている。
ツバサを追う影は2つ…
1つは白く、もう1つは黒。2つとも四足歩行でツバサに向かって必死に走っている。
勘弁してくれ。そう思いながら後ろを向き、やつらとの距離を図る。
このままなら振り切れる。そう思った瞬間ー
ドンッ!
「うわ!」
「いッ…!」
丁度中庭と渡り廊下が交わる地点。横から現れた人影に気付かずツバサは思いっきりその人にぶつかってしまった。
「ご、ごめん!大丈夫か??」
「あぁ…。平気だ。こっちこそ前を見ていなかったから…」
そう言ってツバサは立ち上がりぶつかった人に手をさしのべる
「すまなかったな。」
「え、あ。いや。気にすんな…!」
何やら複雑そうな顔をして、ツバサの手をとり立ち上がる彼。その理由は、恐らく…
「(これ、普通逆だよな…)」
女子にしては男らしい一面があるツバサに少々戸惑ったよう。
お互い派手にぶつかったが、怪我は一つもなかったようで安心し、制服についた埃をはらう。
「そう言えば、」
「…?」
「何でそんなに必死に走ってたんだ?」
ぶつかられた側としては気になるところ。
軽い気持ちでそう聞いた彼だったが、ツバサはなにかを思いだし、すぐさま顔が青ざめていった。
それと同時にツバサの背後から何かの鳴き声。素早い動きで、物陰に隠れるツバサに、ツバサが消え鳴き声の正体がわかった彼。
「おぉ!!」
姿が見え思わず笑みを浮かべた彼は、どうやらツバサが必死で逃げていた白と黒の奴らのことが好きなのだろう。
両手を広げ「こっちこい…!」などと呟いている。
最初は警戒していたやつらも、害がないと感じたのかゆっくり彼のもとへ。
そうしてついには彼の腕の中に収まった。
「子猫ー!!」
頬をやつらの体にすりつけ、心底嬉しそうな顔をする彼。
そんな様子をツバサは信じられないとでもいうような顔をしてみていた。
ツバサを追っていた影の正体は「猫」。
片方は真っ白で、もう片方は真っ黒のかわいらしい2匹の子猫だ。
その愛くるしい瞳に小さな体。気まぐれな性格だが人間たちの間では人気の動物だ。
好きなものからしたら成猫でも愛らしいと思うのに、子猫ときたら威力は倍だろう。
そしてあの「猫パンチ」。
可愛らしく「にゃーん」と鳴いてポンと叩く程度と思っているのか。
人からみれば可愛らしいと思うか、笑いのネタになるかどちらかだ。
しかし、ツバサ…燕からしたら可愛らしくもないし笑い事でもない。
3大天敵の1つでもある猫は、あの恐ろしい猫パンチでいくつもの巣を壊してきた。
「にゃーん」ではない、「シャァーー!」だ。
「ぽん」ではない、「ドカーン!」だ。
あぁ、なんと恐ろしい動物なのだろう。
あの子猫もきっと本能で私を食おうとしてるに違いない。
そんなことを思いつつ、ツバサは物陰から息を殺して様子をうかがっていた。
「お前もこっちこいよ!もふもふだz「遠慮しておく」
良いと思って声をかけてくれたのに、バッサリと切り捨てる。
依然ツバサの警戒はとれないようだ。
「…もしかして、猫嫌いなのか?」
「……。嫌いではない、苦手なだけだ。」
“そいつらがいきなり追いかけてくるから…”そう聞こえるか聞こえないかという声で呟く。
「…。ならさ!俺押さえてるからちょっと触ってみろよ!こいつら大人しいから大丈夫だって」
「……。」
何が大丈夫なんだ。もし引っ掛かれて腕を持っていかれたらどうするんだ。
ツバサの脳内では、そのような葛藤が繰り広げられていた。
結局、このまま逃げることしか出来ないのは嫌だと思い、やつらと戦うことにしたツバサ。
一歩一歩、忍び足で彼と猫に近づく。
「ほら、」
そういって彼は、猫が暴れないように抱き抱えながら、ツバサに近づける。
意を決して、ツバサは猫の頭に手を乗せた。
「お…、」
意外にもふもふだ…、そう思ったツバサ。
これが生涯初となる天敵とのふれあいだった。
「(これで天敵を1つ攻略した…)」
無表情で猫を撫でながらそんなことを思っていた。
隣にいた彼ももう大丈夫かと思い、腕の中にいる白猫を撫でる。
「なんか青海って怖いやつかと思った。」
「?」
「結構面白いやつなんだな!」
「…君は逆に変わったやつだな。」
「そうか?」
「あぁ。」
普通なら失礼ではないか?と思うが、お互い対して気にしてない様子。
「あ。俺、2組の縞三毛也っていうんだ!よろしくな!」
「…1組の青海ツバサ。こちらこそ…?」
「何で疑問形…?」
「…なんとなく。」
「てかやっぱ、隣のクラスだったんだな!」
「え?」
「え、って。2年1組だろ?」
「あぁ。」
「俺、2年2組!」
ニカッと笑って自分を指差してそういった縞。
一瞬ポカンとした顔をするツバサだったが、
「同い年だったのか、1つ下だと思った。
小さかったから。」
と、一言。
その瞬間、この場の空気が凍りついたのは言うまでもない。
‐天敵と瑠璃色の彼‐
((ツバサ酷い!!))
((??何がだ?))