そうして俺は
もういいかい?

まだだよ


もう、いいかい?

まだまだだよ


…もう、
 ―――もいいかい


………もういいよ。






3月―。
学校で行われる最後で最大のイベント。
  卒業式。

卒業生らしき子の胸には、その証であろう在校生が準備した花をつけている。
長い様で短かった3年間。
そしてたった今終った式。

卒業生の多くが在校生や教師とと別れのあいさつなどをしている。

そんな中、在校生と話すわけでもなく、教師と話すわけでもなく、だだ一人ぼーっと校舎を眺めている生徒がいた。
黄色のフードから見える深緑の髪の少年。
長い髪で表情は読み取れないが、彼も名残を惜しんでいるようだ。

ふぅと一息つき、視線を卒業生や在校生の集団にむける。
それで改めて今日で終わりなのだということを感じた。

「…2年って早いんやね」

彼は2年前この学校にやってきた。初めての学校生活で分からないことだらけだったが、いろんな人に助けてもらい今ここにいる。

「上手く生活できたやろうか
これでも何度も消えてやろうかとか思ったんよー」

この場には彼しかいないのに、彼はまるで誰かに話しかけているような口調で言葉を発す。

「ちゃんと卒業証書ってのもらったし、良いやろー」

そう言いながら彼は卒業証書が入った筒を上にあげ、自慢するように軽く振り、笑う。

「俺な、馬鹿な頭でちょい考えたんよ。
これからのこととかな

ここであった奴ら本間いいやつ多くてさ。最初は裏があるんじゃないかって思ってたん。
でも面白いぐらいにみんな素でさ。それに気づいた時、自分がばからしくなったわー
それからまじ、学校での生活楽しくてさ、

行事もたくさんあったなー。体育祭、クリスマス、雪合戦ー。夏祭りとか正月はみんな変わった服着とったな。
浴衣、着物っていうんやって。まぁ、お前はしっとるよな。
文化祭では女装したんやで!もうあっれはきつかったわー…。

言葉もたくさん覚えたんよ。もう人間たちと一緒に暮らすのもなれたし、ばれん自信もある!
たくましい男になったやろー」

意地悪そうに笑う彼。今までの出来事思い出しながら、あれもあったこれはありえなかったと誰もいない相手に語りかける。
思い出を振り返っている彼は笑い、どこか楽しそうであったが、今は口元だけが笑っている。



「自信は、あるんよ。」

そう言って彼はフードに手をかける。

「うん。自信はかなりある。でもな、


やっぱ…、




やっぱ、無理やわ。」

絶対外では取らないフードをとり、複雑な笑みを浮かべて彼はそういった。

「いつまでも、自分が異物だってことを隠せん。
ふとした時にあたってしまうかもしれん。目を合わしてしまうかもしれん。

今まで通り、うまく回避できる自信ももちろんあるよ?
でも、なんか最近おかしいんよ。

前までは触れられても全然何とも思わんかったのに、今はすごく嫌だ。
その人が不幸になるのは嫌やったけど、最近は…


自分がやっぱ異物なんだって思わされるのが…つらい。」


胸が苦しい。
何かがつっかえているような感覚。
こんなことは今までなかった。

嫌、あったけど、気づかないふりをしていたのかもしれない。


「おかしいよな?化物が人の感情ってやつ?持ってるはずないのにさ
涙も出ない、痛みもそう感じない、寒さも。
人間じゃない。分かってるのに。」



少し、ちゃんとした人間になりたいと思うだなんて


「願いをかなえる方法、一つだけあるみたいなんよ。
ここに行けば、人間になれるかもしれん。

正直、ちょい言ってみよっかなって思った


でも、やっぱいいわ」


願いはある。それをかなえたいとも思う。
でも彼はあっさりと拒否の言葉を発した。

「だって、人間になったら阿久涼じゃなくなるもんな。
俺は消えるまで阿久涼でありたいけん。」

柄にもなく照れながら笑う彼は今までで一番生き生きした顔をしていた。

「人間にはならない。悪霊のままでいる。
でもこれ以上人を気づつけたくない。
やから



俺は、今日

この地からも卒業する。」


彼は立ち上がり、卒業証書の筒を今まで座っていたとこに立てらす。

「あんたのとこには行けんと思う。元が違うからね。やけん、またどっか出会えたら会おうな。」

そう言ってたてらした卒業証書の筒を軽く突き倒す。
彼の目線は次に卒業生・在校生の集団の方へ。
彼と今まで仲良くしてくれていた子もいる。少ししか話をしなかった子もいる。
みんな涙を浮かべたり笑ったり、
そんな集団を見て、少し綺麗だなと思ってしまった。


「…今まで、ありがとうな。



せいぜい、最後まで幸せに暮らしやがれ!!」

フードが外れているため今の彼の表情はいつもよりよく見える。
幸せそうで、彼らに良いことがありますようにと、心からそう思っているような顔。

満面の笑みを浮かべ、そう叫んだ彼は、ゆっくりと、姿が薄れていく。


((俺って消えたらどうなるんやろ
 どこ行くんやろうな
 元々無から生まれた存在やし、無に戻るんやろか?

 あいつらは俺のこと忘れるんかなー
 ま、忘れたら忘れたで良いかな。俺も忘れるかもしれんし。

 ちょw俺なんか女々しくないかww

 まぁええわ。

 なんか今、すっげー気分いいけ。忘れても許してやろう!
 俺やっさしー。


 …。

 …んじゃまぁ…





 さ よ な ら 。))



そして、そこには最初から何もなかったかのように
彼の姿は跡形もなく


 消えた―








 もう、
  消えてもいいかい

 あなたが後悔しないのであれば
  いいですよ。

 後悔…?
  むしろ幸せやし!



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