悪霊…?全然悪霊じゃないじゃん…
だってあんた――
−痛みと×××―
学校の中庭にあるベンチ。
そこに、不思議な組み合わせの2人がいた。二人の間に会話は全くなく、片方は空をぼーっと眺め、片方は下を向いて必死に何かを考えているという状態。
「(えーっと…こいつ2年のやつよな…?あの双子の…!
ナイフもってないけん…弟の方?命やったっけ…!?)」
「……。」
「(てかこの沈黙何!?え、何かしゃべった方がいいん??いいん!?)」
普段どんな人にもばかみたいに絡む涼だが、1対1の沈黙だけはどう対処すればいいのか分からず、驚くほどおとなしい。
我慢の限界か、涼は意を決して口を開いた。
「…い、
良い天気ですね…!」
「……。」
「……。」
「(うぉおおおおお俺えぇぇえ"いい天気ですね"ってなんじゃい!乙女か!?何なんだくっそ!!)」
勇気を振り絞って発した言葉に、自らダメージを負う。恥ずかしさのあまり、下を向き顔を覆った。
対する彼は、涼の言葉に反応し一度は涼の方を見たものの再び目線を空へ戻す。そして
「…確かに」
そうぽつりとつぶやいた。
反応してくれ無かったらさらに恥ずかしい思いをしただろう。彼の呟きをちゃんを聞いた涼はパッとスイッチが入り通常運転になる。
「今日は一人なんやね!」
「…ん」
「弟の方よね?命であっとるっけ?」
「…(コクン」
「2人て本間そっくりやね、ナイフでしか区別できんわー」
一方的に涼が話している感じだが、それでもさっきよりまし。
ある程度話をしていると、彼は目線を空から外し、涼へと移した。
「…?」
「…誰?」
「今更!?」
自分は3年で彼は2年。あまりかかわりがないため、名前を覚えていなくても不思議ではないのだが、まさか今、そして直接言ってくるとは。
「(知ったふりをしない素直な子…なんやろうけどね…。)」
"正直誰はちょい傷つく…"そう心の中で呟き、涼は彼に自己紹介することに決めた。
「3年の阿久涼っていうんよ。あんまり話す機会無いと思うけど覚えてくれたらうれしいわー」
「…あく…悪霊?」
「!…あーえっと、"あく"が苗字で名前が"りょう"!
涼先輩って呼び!」
「…そのうち」
「そのうち!?」
悪霊というワードについ反応してしまったが、多分気づかれてないだろう。
少し冷や汗をかいてしまい、涼は制服からだらしなく伸ばしてる裾で顔に向けて仰ぐ。
「ピン止めさん」
「さっき名前名乗ったよね?え、もしかしてもう忘れたとかいうん?」
「暑いなら裾まくるか脱げば…?」
「あ、無視ですか。そうですか」
溟森兄弟は名前を憶えないと誰かから聞いた気もするがまさか名乗ってすぐ名前でないもので呼ばれるとは思わなかった。
反射的にツッコミを入れてみたが、彼はそのツッコミには全く動じない。
ため息を一つつき、涼は再び口を開く。
「…俺はね、素肌出しちゃいけんのんよ」
「……。」
「もし触れてしまったらその人を不幸にしてしまうけん。
俺は…本当に悪霊やからね……」
自分でも、なぜこんなことを口にしてしまったのかはわからない。
でも、名前すら覚えていないのだから、こんなこともすぐに忘れてしまうだろうと思ったからかもしれない。
無意識に口走ってしまった感じで、涼はあわてて"冗談やけどね!"と笑ってごまかした。
すると、ずっと黙っていた彼が、いきなり立ち上がり、涼の前へ立った。そして片手を涼の方へ近づける。
「?!」
反射的に涼は両手でガードしようとするが、彼はそんなの気にせず涼の胸に辺りに手を当て、言った。
「悪霊…?全然悪霊じゃないじゃん…
だってあんた、
人の痛みがわかるでしょ?」
「…!」
彼の言った言葉が、すぐには理解できなかった。
俺が…?人の痛みを…?
そんなのわかるはずがない。人にある感情が俺なんかにあるはずないのだから。
そう思えば思うほど、なぜが彼の触れている胸のあたりが、ズキッと痛んだ。
「(なんだ、これ…)」
否定の言葉を並べれば並べるほど、痛みは増える。
ありえない。
でも、もし。
もし俺にそんな気持ちがあったら…?
「(それなら俺は…)」
もし、彼の言ってることが本当なら、
俺は…
「…ど」
―痛みと竜胆色の彼―
(どこ触ってるのよお兄さぁんん!)
(…ん(パッ)
(まったく! (あーもう、熱い…))