「初めまして。今日からこの部屋に一緒に住むことになりました。青海ツバサといいます。
仲良くする気はないですが、よろしくお願いします。」
そう言って彼女は軽く頭を下げた。
−握手と×××−
1年の春。全寮制であるこの学校は、生徒は必ず2人以上4人未満の相部屋となる。
ほとんどの新入生が入学式前に来て、寮生活をスタートさせるはずなのだが、290号室は入学式当日になっても一人だけ。
入学式がおわり、自室で休んでいるとノックもなしにいきなりドアが開いた。
開いたドアの前に立っていたのは紺青色の髪をした女の子。一歩前へ進むと右から左へと部屋全体を見回す。
そうして、椅子にもたれ背伸びをしていた柑子色の髪の女の子と目があい、最初のあの言葉を口にした。
「「……。」」
なかなか相部屋の人が来ないと心配になり、来たと思ったらあの言葉。驚きやらで言葉が出ない。
沈黙が続く中、この空気を作った張本人が何も気にしていないような顔をして「私はどこを使えばいいだろうか」と聞いてきた。
「え、あ。ここの部屋あたしとあんただけだから好きなところ使っていいよ」
「そうか。」
それだけ言ってツバサは端の机に鞄を置く。すぐさま鞄から荷物を取り出し、片づけを始めた。
「えっと。あたし辻宮京子っていうんだ!よろしくな!」
この気まずい空気を換えようと、明るくそういって右手を差し出す。片づけの手をいったん止め、差し出された手をじーっと見るツバサ。
「…?どうしたんだ?」
「これはなんだ?」
「これって…?」
そう言うとツバサは差し出した京子の手を指さす。
「えっと、握手のつもりなんだけど…?」
「握手…。あぁ、あの手を用いた挨拶か。」
「口頭だけで済まさないのか」と変なことをつぶやいていたが、ちゃんと京子の手を握り返した。
「(あー…よかった、返されなかったらどうしようかと思った…)」
「だが、さっきも言ったとおり仲良くする気はないぞ?」
「……。」
先ほどから空気を全く読まない彼女の言葉。
凍った空気。
それを壊すかのように京子は思いっきり手に力を入れた。
「…痛いんだか」
「痛くしてるからな」
「…はぁ…」
何を言ってるんだこいつはと言わんような表情を浮かべるツバサに、京子は少し企んだような笑顔を浮かべる。
「あたしは決めたよ!」
「何をだ」
「絶対あんたと仲良くなると!!」
−握手と柑子色の彼女−
(…あ、ハイ)
(ハイ!)
(人間チョット怖イ。)