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中学を卒業し、同い年のやつらともに高校へ行くはずだった春―
勉強もそんなに得意じゃない俺は、公立などの進学校に行けるわけでもなく。平凡…というよりも貧しい家庭のため、授業料の高い私立高校に行けるわけでもなく。
結局高校を行かないまま、近くの工事現場で働かせてもらうことになった。
「おい、もう上がっていいぞ!」
「はい」
もともと目つきが悪いし、性格も良いのかと聞かれるとはっきりと答えれる自信はない。
中途半端な性格とこの目つきの悪さから、中学時代はよく望んでもない喧嘩をやったものだ。
高校へ行かないという決断をしたのはもしかしたら、これが大きな理由だからかもしれない。
また下手に喧嘩でもして迷惑をかけるのは、あの人たちに申し訳ない…。
「(…疲れた。)」
プレハブの中で着替えをし、ふと窓の外を見ると、つい最近まで緑だった葉が赤く色を変えていた。
季節はもうすぐ秋。
今年から入った現場の作業も大体慣れた。夏場の作業は本当地獄と言っても良いのではないかと思うぐらいきつく、ここの現場の人にも迷惑をかけてしまった。
「九!これ今月分のな」
「あ。ありがとうございます…。」
そう言って貰うのは見慣れた給料袋。自分の銀行なんてないし、手渡しの方がどこか安心できる。
ここは元々このスタイルだったらしく、これはこっちとしてもありがたい。
「今回頑張ってたからちょっとサービスな」
「え!?そんな、悪いです!」
「良いから良いから。これからも頑張れよ?冬は夏と同じくらい厳しいからな!」
「は、はい!頑張ります!」
男は最後にニカッと笑い、プレハブを後にした。もらった給料袋を大事に握りしめ、手と一緒に服のポケットへ突っ込む。
大事な金もあることだし、今日は真っ直ぐ帰ろう。そう心のなかで呟き、俺は現場を後にした。
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