1
道に植えられた木の葉が完全に赤く色づいている。
中にはその役目を終え、1枚…また1枚と地面に向かって落ちる。
季節は秋。
必要最小限しか入っていないボストンバックを片手に、アユムはある学校の前に立っていた。
「ここが…」
中高一貫のその学園は私立校といってもおかしくないほどの大きさ。
お金持ちや才能ある者だけが通えると噂されているその学園の名は―
「…御社学園。」
――――――――
――――
門をくぐり学園の敷地に入ったアユム。
ここに来たらまず職員室に来るように言われていたことを思いだし、校内に入って職員室を目指す。
しかし―
「…。広すぎだろ」
今まで通っていた学校の数倍はある敷地に、彼は早速迷ってしまったよう。
きょろきょろとあたりを見回すが、案内らしきものは何もない。
「ッチ…面倒臭ェ…」
「そこの君。」
「!」
途方に暮れていたその時、背後から女の人の声。全く気配がしなかったため、アユムは驚きを隠せずにいた。
「え、俺…?」
「君しかいないでしょう。制服はどうしたのですか?
校内では私服禁止ですよ?」
“ここに来て職員室に行け”
そうとしか言われていないアユムは、普通に私服でここまで来てしまった。
もしそんな校則があったと聞いていても、制服はまだもらっていない。
少し警戒気味で声をかけてきたその子にアユムはとりあえず事情を説明しなければと思い言葉を発す。
「あー…、制服まだもらってなくって」
「まだ?この学園に入学予定ですか?」
「多分明日か明後日くらいからだと…」
「…この時期に?」
「……。」
人と話すのは好きじゃないアユム。警戒を解こうとしたがむしろ逆効果のよう。
面倒くせぇ…。そう心の中で呟いた。
次になんと言葉を出そうと考えていると、彼女は口元に手を添え何か考えているそぶりを見せる。
「もしかして“九アユム”さんですか?」
「! 知ってたのか」
「あぁ、やはりそうでしたか。昨日書類を見てまして、この時期に編入してくるなんて珍しいなと。」
自分を知っていたこと、書類という言葉、それからこの人はこの学園で結構地位のある人なのかと思ったアユム。
彼女は警戒を解き、疑ってしまったことについて謝罪した。
「ところでこんなところでどうしたんですか?
ここは中等部。 高等部はあっちですよ」
「……え。」
prev /
next