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少し小走りで彼の家でもある建物の中に入る。
「ただいま」と中にいる人に聞こえるのかという声で呟き、靴を自分の指定の場所に片づける。
リビングらしき部屋のドアを開ければ、中には10人くらい子どもたちが小さなテレビの前に大集合していた。
「あ!アユム!」
「おかえりーー!」
「はいはい、ただいま…」
彼に気付いた子供たちは顔だけこちらに向け、「おかえり」と笑顔であいさつ。そしてまた視線はテレビの方へ。
「アユムさん、お帰りなさい。ご飯食べますか?」
「ただいまです。あー…自分で用意するんで大丈夫ですよ」
「そうです?なら私は布団の方用意してきますね」
「あ。ちょっと待ってください。」
「?」
50代らしき女性はかわいらしいエプロンをし、顔だちも彼とは違いとても優しそうであった。
その女性を彼は呼び止め、ポケットから先ほどもらったばかりの給料袋を差し出す。
「今月の分です。」
「そんないつも悪いわ。自分のために使っていいのよ?」
「ここのために使ってくれるなら俺もうれしいんで」
「そう…?」
「はい、いつもお世話になってます」
この時の彼はいつもと違いどこか穏やかな表情であった。
彼の給料袋が女性のエプロンのポケットに入った途端、見ていた番組が終わったのか、子供たちが一斉にこちらを向き、
「あー!アユムがコネつかってるー!」
「コネ!うらがねだー」
「お前らどこでそんな言葉…」
「「「今、テレビで!」」」
「お前らどんな番組見てんだよ…。あと年上呼び捨てにすんなって言ってんだろ…」
「え?アユムはアユムでしょ?」
「アユム…さん?うわーー変!」
「……。」
と、彼を年上の人と思ってない態度でからかう。
台所に行き、用意してくれた食事を温めていると、カウンターのところで子供たちが一列に並び、また彼に向って言う。
「アユムあそぼーよー」
「俺今から飯だから」
「アユムに食わせる米があると思ってるの…??」
「お前ら何様だ…。」
「おれさま?」
「…イタイな」
「うわーん!アユムがいじめたーーー」
「「いーけないんだ、いけないんだー。」」
「あーもーうるせぇえ!!」
子供たちに一喝すると、面白がった彼らは「きゃー」と叫び自分達の部屋へ。
ようやく落ち着いた、彼は食事を始めた。
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