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追いかけっこが始まり数十分。
だんだん疲れが見え始めるアユムとは裏腹に黒い物体は疲れなど見せず、むしろこの状況を楽しんでいるようだった。
「ハァ…まじ、ありえねぇ…」
あれは人間じゃないことはわかった。
でもなんで俺は追いかけられてるんだ…?何かあいつの気に障ることしたか…?
それに霊とかそんなの俺は見えなかったはずなんだけど…。
「(あれ…どうだった、っけ?)」
確定できるはずなのに何かが引っ掛かる。
考えに夢中になっていたアユムは、周囲の注意が薄れ、盛大に転んでしまった。
「いって…」
久しぶりに転んだ気がする…。そんなことを思ったが、すぐさま後ろをむく。
と、そこにはあの物体が3つ。
「…増え、てる…?」
「「「…。」」」
ヤバイと思ったときにはもう遅かった。
一瞬の隙をつき、1匹がアユムの首を掴む。
「ぐッ…!」
手を離させようとアユムも抵抗するがピクリとも動かない。
その内に残りの2匹はジリジリと距離をつめ、アユムの足を掴む。そしてギザギザな歯をしている口を大きく開けた。
「おいおい…。」
この状況が信じられず、なぜか笑いが出てくる。足に今までにない激痛を感じ、アユムは薄れゆく意識の中へ。
世間ではこういう時走馬灯のように思い出が駆け巡ってくるというが、アユムには何もなかった。
何も見えない真っ暗な世界で一人そこに立っている。実感はわかないが、なんとなく死ぬんだろうなと、そう悟っていた。
「分けもわからず死ぬとか…。」
そうぽつりとつぶやく。
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