※夢主出番なし


 派手な髪色を見かけそれが杏寿郎だとわかった宇髄は声を掛けようと口を開く。が、その当人が珍しく優しい表情で目を細めながら笑いかけている隣の女を見て、それを閉じた。
 
 あの硬派な煉獄が女といる。
 
 それは宇髄にとっては目が点になる程珍しい光景であった。しかも煉獄の隣にいるその女がこりゃまた別嬪で。ただ隊服を着ているところを見ると、鬼殺隊士の一人なのだろう。あんな女いただろうか。初めて見かける顔であった。



「よ、煉獄」
「む、宇髄か!久しいな!」


 杏寿郎が一人になったタイミングを見計らい、宇髄はその派手な後ろ姿に声を掛ける。


「さっき一緒にいた女隊士見ねぇ顔だったな。やけに仲睦まじそうに見えたがお前の女?」
「違う、俺の継子だ!」


 なるほど。
 それを聞いて宇髄は何処か内心ホッとしている自分に気付く。

 こいつが女作る玉じゃねぇよな。あんな美女、煉獄には勿体ねぇよな。


「継子ねぇ・・・継子に留めとくには勿体ねぇくらい別嬪だったな」
「何が言いたいんだ宇髄」
「本当にお前にとってただの継子なのかよってこと」


 その言葉に杏寿郎は目を丸くした。
 そうだと、肯定の言葉がすぐ喉元まであるのに何故かそれが発せず、宇髄に言われた通り本当にただの継子なのかと考えている自分がいる。自分にとって彼女はそれだけの存在なのかと。

 そんな黙り込む杏寿郎を見て、宇髄は小さく吹き出した。


「ちょっ・・・お前地味にフリーズしてんじゃねぇよ。意外とわかりやすいところあんのな」
「・・・すまん、彼女はただの継子だ」
「あーはいはい、もうよくわかったからいいわその話は終わりで」


 興が冷めたように手を左右に振って見せる宇髄に杏寿郎はむう、と口をへの字に曲げる。そしてガッと自分の肩に腕を回してきた宇髄はそのまま続けた。


「煉獄、お前今日非番だろ?確か。どうだ、久々に飲まねぇか」
「うむ、いいだろう!」


 快く承諾した杏寿郎と待ち合わせ場所を決め、一度別れる。俺は嫁三人いるからいいが、煉獄はそこんところちゃんと息抜きできてんのかね。今まで女の影が全く伺えなかった。たまには遊郭にでも連れてってやるか。





灯火 第八話:しらない世界を燃やす炎




 すっかり日が暮れた頃、杏寿郎と待ち合わせ隊服から普段の着物へと身を包んだ二人は並んで吉原遊郭へと足を運んだ。連れて行かれるがままであった杏寿郎は、吉原に辿り着いた瞬間眉を寄せて宇髄を見上げる。


「・・・宇髄、よもやここは・・・」
「んだよ煉獄。お前も男ならこういう場所で派手に遊ばねぇと真の男とは呼べねぇぞ」
「むう・・・」


 硬派な杏寿郎は困ったと腕を組む。
 全く興味がないと言えば嘘になるが、初対面で一言も話したことのない女子と酒を交わし一夜まで供に過ごすなど、杏寿郎には許容範囲外であった。だが、宇髄の言う"真の男"という言葉が妙に自分の中で引っかかり、焦燥感を覚えた。よもや遊郭で一夜を過ごさなければ、真の男ではないとは。


「わかった、俺も男だ!とことんお前に付き合うとしよう!」
「お、いいね〜!そうこなくっちゃ」


 こうして入った店は、宇髄のお気に入りだという大文字楼であった。入るなり出迎えた数名の遊女の中から好みを一人指名しなくてはならず杏寿郎は面食らった。慣れた宇髄は隣で既に遊女を指名し部屋へと案内されている。早くしなくては。どうか私を選んでくれと言わんばかりの眼差しを浴びて、杏寿郎は困ったと眉を寄せる。
 するとふと、目に止まった一人の遊女と視線が重なり、杏寿郎は何となく彼女を指名した。

 部屋へ案内され優雅に振る舞う指名した遊女と酒を交わし何気ない世間話をする中。

 杏寿郎は奏のことを考えていた。

 何となく自分が指名した遊女は、彼女に雰囲気が似ていた。無意識にそんな彼女に似た遊女を選んでいた自分に可笑しく思い、杏寿郎は小さく笑う。

 やはり宇髄とは違い、自分にはこういう場所は向いていない。


「宇髄、すまん」


 そう立ち上がる杏寿郎を、楽しそうに酒を飲んでいた宇髄は見上げる。


「どうした煉獄?」
「うむ。申し訳ないが俺はやはり帰らせてもらう!」
「はあ!?ちょっと待て、指名した女が好みじゃなかったって言うんなら変えてもらえば済む話だろ」
「いや、そういう訳ではない!むしろ指名した彼女のお陰で気づけたことがある」
「・・・・・・」


 勘の鋭い宇髄は、杏寿郎のその様子だけで彼の言った意味を理解した。特に色恋沙汰に関しては手に取るようにわかってしまうのだ。やれやれと溜息を零す。


「・・・仕方ねぇ、今日は俺も大人しく帰るとするか」
「む、お前は残ってくれて構わんぞ」
「元々お前と飲みに来たのが目的だ。地味な居酒屋で飲み直すとしようぜ」


 そして吉原を後にし、杏寿郎と宇髄は帰路にあった屋台で飲み直し杏寿郎が生家へ帰ったのはすっかり朝方のことであった。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -