※R18注意
中学二年生の頃。
「苗字、話があるんだが・・・」
部活動が終わり、赤司くんに一緒に帰ろうと声をかけられた私は彼と肩を並べて校門をくぐった。そんな私達を見たキセキの世代達の冷やかしは実に煩く、とても恥ずかしかった記憶がある。
世間話をしていたら、突然足を止めた赤司くんがそう真剣な眼差しで見つめてくるものだから私も足を止めて生唾をゴクリと飲み込んだ。
赤司くんから緊張の匂いを感じ、私は察した。彼が今から言う言葉を。
「・・・実はずっと前から、」
「あ!ちょっと待って・・・!」
あの赤司くんが何処か恥ずかしそうに口を開いた瞬間、私は咄嗟にそれを遮ってしまった。
「・・・苗字?」
「あの、そういうの・・・やめない?私達・・・」
「え・・・・・・」
そう言った私に、赤司くんはこの時どう思っただろうか。
今でもこの時のことを後悔している。
きっと、赤司くんは私に好きだって、そう言おうとしてくれたんだとわかっていたのに。
だが私は赤司くんとの今の関係が壊れてしまうのではないかと怯えて進むことができなかったのだ。
タクシーに一緒に乗り、私の家に着いた時。私は結構酔いが覚めていた。だが未だに私がベロベロに酔っていると思い込んで肩を貸してくれている赤司くんの顔がすぐ横にあって、ドキドキして私は酔った振りをそのまま決め込んでいた。
「苗字、自分で部屋まで帰れるかい?」
「うぅーん、無理ぃ・・・赤司くん連れてってぇ」
「はぁ・・・仕方がないな」
そう私の鞄を軽く漁り鍵を取り出して渋々玄関を開けてくれる赤司くんは優しい。
そして中に入るなり、玄関で赤司くんにそのまま抱き着いて強引にキスをした。拒絶されても酔っていたことを理由にしてしまえば後々気まずくなることなんてないし、それならばその勢いで赤司くんを誘惑して行けるところまで行ってしまえばいいとさえ思った。それできっぱり彼のことを諦めて忘れようと思ったのだ。
案の定、赤司くんは驚いて「苗字・・・っ、離すんだ」と咄嗟に私を引き剥がす。その瞬間拒まれたのだと酔いが覚め切っていた私の胸中に痛みが走った。だが視界に映った赤司くんの表情は動揺と困惑の色をしていて、私はそこにつけ込んだ。
「・・・おねがい、抱いて赤司くん・・・」
そう上目遣いで訴えれば、次は赤司くんからキスしてくれた。噛みつくような荒いキスだった。
あなたが狼でした 後編
青峰と桃井の結婚式で久しぶりに再会した苗字は昔と変わらず、あの頃のままであった。胸の奥底にしまい込んでいた彼女への想いが沸々と蘇るのがわかった。
中学の頃。
「ねぇ、赤司くんって名前のことが好きじゃない?どうして付き合わないの?」
そう唐突に尋ねてきた桃井に、オレは一瞬動揺の色を表情に出してしまった。
「・・・オレが苗字を好きなことは決定なのかい」
「だってそうでしょ?私の情報の中ではそうなんだけど」
「・・・・・・」
まさか桃井が自分の情報まで把握しているとは知らず、思わず固まる。思えば桃井は彼女の親友であった。
桃井は続ける。
「名前だって赤司くんのこと好きなんだよ?両想いなのにどうして告白して付き合わないの?」
そうまるで理解ができないといった表情で訴えてくる桃井に、オレは目線を落とす。思い出すのはある日の帰り道のことだ。オレが苗字に気持ちを伝えようと思い、一緒に帰ろうと誘ったあの日。彼女はオレの言葉を遮ってやめようと言ったのだ。
「・・・どうやら彼女は、その話題を避けているようだからね」
「え、避けてる?」
「オレは嫌がる彼女に、自分の気持ちを押し付けたくないんだ。それならこのままの方がずっとがいい」
苗字はオレと付き合うことに前向きに考えてはいないように見えた。それなら彼女からのサインが来るまで待とうと思い、自ら気持ちを伝えることは避けようと思った。
だが結局、彼女からも何もないまま中学校生活を終えてしまった。
そのまま高校・大学とも別々になり彼女のことを吹っ切れないまま過ぎていく日々。父さんの跡を継ぎ社長に就任し仕事に追われ多忙な毎日を送った。何度か父さんの選んだお見合い相手と交際を試みるも、苗字に未練が残ったままのオレにはその相手を心から想うことができず自ら破談させていた。
そして今、ずっと想ってきた彼女がすぐ横にいる。
「苗字、家はどっちだい?」
「ん、あっちぃ・・・東方向ぅー」
二次会が終わりみんなと別れ、オレは苗字を支えながらタクシー乗り場に行き停車していたそれに乗り込んだ。車内に入るなりだらりと肩にもたれ掛かってくる彼女は少し酒臭い。顔色があまり良くないところを見るとまだ酔っているのだろうと思った。彼女から住所を聞き、それを運転手にも伝え車を走らせてもらう。彼女を送り届けた後、自分もこのままこのタクシーに乗って家に帰ろう。そんなことを窓から流れる景色を眺めて考えていた。
だが自分一人では部屋に戻れないという苗字にヤレヤレと鞄から鍵を取り出してやり玄関へ入った瞬間。彼女が突然首にしがみついてきてバランスを崩しそうになったオレに強引に唇を重ねてきた。予想だにしなかったその行為に驚き咄嗟に彼女を引き剥がす。
高鳴る鼓動と思った以上に彼女の唇の感触が柔らかくて、感情を激しく乱された。
「・・・おねがい、抱いて赤司くん・・・」
そう白い肌を紅潮させて訴えてきた苗字に、オレは理性がとんだ。その薄ピンク色の口紅を乗せた唇に、今度はオレが噛みつくようなキスを送る。僅かに開いた隙間から舌をねじ込ませ彼女の舌を絡め取り強く吸うと「んっ、んんっ」とくぐもった声を漏らす苗字に気持ちがどんどん昂った。欲望のままに性急に彼女の纏っていた服のボタンを外し露わになった胸元に下着を上へずらす。もう片方の手で内腿を撫で、キスだけで濡れたそこに指を這わせて、彼女の身体を壁に押し付けたまま指を二本挿入した。
「あっ、んっ、ぁあっ」
豊満な胸の先端を舐めながら挿れた二本の指を少しずつ動かすと苗字から聞いたことのない甘い喘ぎ声が聞こえ、それがよりオレの性欲を掻き立てた。十分愛撫したそこからずるりと指を引き抜き、濡れた指先を舐め取るオレに彼女はとろんとした目で物欲しそうに見つめてきて、それがとても煽情的であった。
壁に押し付けた苗字の足を開かせ、素早くベルトを外し自分の固く膨張したそれを一気に挿入する。下から突き上げるようにして腰を打ち付けてやると気持ちが良いのか、喘ぐ彼女の口端から流れる唾液を舐め取ってやる。無音の部屋にぱん、ぱんと肌がぶつかる音と水音と嬌声が響き渡った。
「や、あぁっ、んぁっ赤司、くん・・・はげしっ、」
「・・・名前で、呼んでくれ・・・っ」
「ん、あっ、あぁっ、せいじゅ、ろぉ・・・!」
「・・・名前っ・・・・・・」
「あっ、そこ、だめ・・・あっ、ぁああっ!」
「・・・っ・・・」
彼女の淫らな姿とキツい締め付けに限界が訪れ咄嗟に引き抜こうと身体を離そうとするが、オレの腰に足を巻き付けてそれを拒んだ彼女に一瞬困惑するもオレは達した。ずるずると壁から崩れ落ちる苗字の身体を支えてオレ達はその場に腰を下ろす。
ハァハァと息を整える彼女の汗ばんだ前髪を掻き分けてやると、熱の帯びたその瞳と視線が絡んだ。
「・・・苗字、色々とすまない」
「ん、いいの・・・私はこれで満足。私の方こそごめんなさい・・・無理矢理誘っちゃって・・・」
「いや・・・謝る必要はないだろう」
「私・・・ずっと、赤司くんのこと、好きだったから・・・どうせなら酔った勢いで最後に抱かれちゃえって・・・思って、本当ごめんなさい・・・」
そうオレから視線を逸らし、息も絶え絶えに言った彼女をオレは抱き寄せた。それに肩をビクリと揺らした苗字の耳元に口を寄せる。
「構わない、オレもずっと苗字・・・お前のことが好きで忘れられなかったんだ。こうして久しぶりに会えて嬉しかった・・・だから最後だなんて言わないでくれ」
「えっ・・・赤司くんまだ私のこと想ってくれてたの・・・?」
「あぁ、あの頃からずっと想っていたよ。あの時嫌がる苗字に遠慮せず、自分の気持ちを伝えておけばよかったと後悔していた」
「ちがう・・・私は嫌だったわけじゃないの。先に進むことで、赤司くんとの関係が壊れちゃうんじゃないかって怖かったの・・・だから嫌がってたわけじゃないんだよ」
オレの肩口に顔を埋めて啜り泣く苗字の髪を撫でてやる。
あの頃と変わらない彼女の香りが鼻腔を擽った。
「壊れないだろう。オレ達なら大丈夫だ。ずっと想い合ってきて、今もこうして変わらずにいるのだから」
身体を離し、濡れた頬を指で拭ってやる。
そしてどちらともなく唇を重ねた。今度は味わうような優しいキス。
長年を経てオレ達はようやく結ばれるのだった。
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「だいちゃんも気が利くね」
ぐーすか鼾をかく黄瀬を抱えた青峰に、桃井が嬉しそうな声色で言う。それに対し青峰は頭を掻きながら答えた。
「だってよ、あそこで苗字を緑間か紫原かテツに送らせたところでアイツらなら普通に送り届けて終わりだろ。赤司なら苗字のこと好きだったし、アイツが真の男ならベロベロに酔った好きな女に何もしないで送り届けたりしねーだろ」
「赤司くんがそんなことするかなぁ」
「いい加減じれってぇんだよアイツら。中学の頃からよ。そろそろくっつかねーとうぜぇだろ」
「まぁ確かに」
結果、赤司は青峰の期待にしっかり応えた真の男であるのだった。
2020/07/29 Fin
<あとがき>
ゆづき様、5000打リクエストありがとうございました!
お題が細かく書いてあり、わくわくしながら書かせて頂きました。
結果R18になってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
メッセもいつもありがとうございます!
大変励みになっております。
これからも更新頑張りますので、どうぞ暖かく見守ってやってください!
ありがとうございました。